沖田双子夢 2

□ぱちん、ぱちん
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「うどんちょーだい」

「はいよ。じゃあペヨングちょーだい」

「はいよ」


ずるずると麺を啜る音が小屋に響く。爆ぜる火の粉を見ながらあたしたちは器を交換し合う。


「油揚げ全部食っていい?」

「いいって言うと思ったの?そりゃすげーや」

「えー。半分くれ」

「半分ならいいよ。あたしもペヨング半分食べちゃったし」

「は、あ?…ああ!お前いつの間に!」

「ごめーん。カップラーメンの焼きそば系大好きなんだ。てへ」

「てへじゃねーしきめーし。俺だって好きなの知ってんだろ」

「ならうどん半分食べていいから」

「フン、当たり前でさァ」


半分食べたペヨングを総悟の前に置き、UFQを手に取る。汁を飲んでいた総悟が縁から口を離し「あっ」と言った。


「つかなまえ、それも焼きそばじゃん」

「ね、忘れてた。うまー」

「やべ、蕎麦伸びる」

「総悟、あー」

「これも食いたいのかよ。太るぜィ。―――ほら」

「もぐもぐ。美味しい〜」

「なまえ、あー」

「はい、UFQ」

「もぐもぐ。こっちもうめーな」

「汁ちょーだい」

「かきあげはやんねーぞ」

「油揚げ食べたのに!?」


それから何度か交換し合い、空になった器を重ねて床に置く。総悟はそのまま床に寝転び、暖かさを逃さないよう丸まった。
ぱちん、ぱちん、爆ぜる音と共に舞う火の粉が綺麗で、あたしはジッと暖炉を見つめる。

耳を澄ませてみるけど、暖炉の音以外何の音もしない。いさ兄たち早く助けに来てよねえ。夜が明けるまでに来なかったら、ホラー映画垂れ流しの部屋に2人共括りつけて放置してやるんだから。


それから暖炉を見てたけどうとうと眠くなり、膝を抱え込むように座って額を膝に付けると、胸元で何かが揺れた。


――何か、なんて言わなくても分かってるけど


膝から額を離し、揺れたネックレスを手に取る。針金に囲われた赤い石が目の前の爆ぜる火の粉の色そっくりで、勝手に口元が歪む。

石、というより水晶の欠片のように澄んだそれは針金で囲われてるから直に触れない。けど初めて手に取った日、とても冷たかったのを覚えている。

暖まった体が、手に持った石から急激に冷えていく。ぶるりと震えた腕を自分を守るように両手で掴んで目を瞑る。




「大丈夫かィ?」


冷えていく体にするりと入り込んだ声は真後ろで聞こえ、返事をする前に背中から抱きこまれて、石を持っていた手は大きな手に包まれた。

片方の手はあたしの腰に回っていて、ぎゅうぎゅうと力が込められる。総悟の体温に強張った体から力が抜け、背中を総悟の胸板に預けたまま息を吐く。


「総悟…」

「なまえ、大丈夫かィ?」

「ん、大丈夫。ありがとう」


手を掴まれたまま首筋に擦りよると、くすぐったいのかフッと笑う声が聞こえる。調子に乗って何度もやると腰に回っていた手が頭を叩いた。

笑いながら謝って手を離してもらおうと上を見上げると、総悟は静かな目で掴んだあたしの手を見ている。手の中の石を見ようとしているのか力が緩んでいく中、あたしは逆に石を隠すように握る力を強くした。


「いつか、いつかね。総悟に聞いてほしいことがあるの」

「…それは今じゃ駄目なんでィ?」

「今は、ごめんね。でも必ず話すから、それまで待ってて」


そう言ってそろそろ見上げると、今度はしっかり目が合い、少し眉を下げた総悟がいた。総悟の手が離れた手はもう冷たさは感じず、石もただ針金の冷たさを残すだけだった。

総悟が眉を下げたのは一瞬で、いつも通りの表情に戻った兄は何を思ったか毛布を奪い2重にすると、あたしを前から抱き締めてすぐに2人の体を毛布で包んだ。


「待ってやりまさァ。お兄様は気がなげーんでね」

「ありがとう。でもそれは初耳」

「何言ってんでィ。じゃなかったら土方の野郎なんてとっくに死んでらァ」

「そりゃそうだ!じゃあその気の長さに甘えさせてもらいます」

「そうしろ。んで必ず話せ」

「うん」


未だ燃え続ける暖炉はもう視界にない。ぱちりと爆ぜる音だけを聞きながら暖かい体に抱きついた。


お互いの体温で暖まり寝てしまったあたしたちの耳に、泣いたいさ兄の声と怒鳴ったトシ兄の声が聞こえたのはそれから少し経った頃だった。




(総悟ォォ!なまえェェ!!)
(おい双子起きろ!無事か!?)
(ギャーギャーうるせーですぜ。ちゃんと生きてまさァ)
(ふああ、やっと迎えに来たあ)

((なんでお前たち下着っ…!))
((ウェアが濡れたから))



 
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