沖田双子夢 2

□運が良いのか悪いのか
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グオオオオオッ!

ズドーン、と地面が揺れるほどの衝撃を立てながら熊が倒れた。その揺れで尻もちをついたたまま様子を窺うと、熊は仰向けになったままぴくりとも動かない。でもせいぜい目を回したくらいで、きっと死んではいないはず。

いつ起きるか分からないからその隙に逃げようと、痛む体に鞭を打って立ち上がる。

総悟は大丈夫かなって隣を見ると、そこはもぬけの殻で誰もいない。え、一緒に枝握って倒したよね?幻像?


「そ、総悟?」

「ここでィ」


恐る恐る呼ぶとさっきまで逃げていた方から声がする。まさか…


「…なんで先行ってるの?」

「オメーこそいつまで突っ立ってんでィ。さっさと進まねーと日暮れるぜ」

「…体痛くないの?」

「ちょー痛てェ」


話しながらスタスタ先に進んでいく兄の背中はよく見たら丸まっていて、痛いという言葉が嘘じゃないことが分かる。

空を見上げれば青かった空は橙色に染まり始めていた。日が暮れれば今以上に気温は下がり、もしかしたら吹雪くかもしれない。一刻も早く体を休ませる場所を見つけなきゃ、下手したらあたしたちは死ぬ。


「待ってよ総悟ォ」


痛む体は総悟も同じだからとグッと一歩を踏みしめ、小さくなる背を急いで追った。






「洞窟とかあったらいいなあ」

「山ん中だしありそうだけどねィ。死体付きで」

「やめてよ縁起でもない。もし死体があったら総悟どかしてね」

「どかせばその洞窟にいれるたァ、さすがなまえ」

「さすがってどういうことよ。ってかいさ兄たち探してくれてるかなあ。何にも音がしないんだけど」

「ヘリぐらい飛ばしてくれてもいいのにな。優秀な部下の一大事だってのに」

「あたしたちがいなきゃ真選組は機能しないのに」

「「ね〜」」

「そういや一昨日マヨの中身をからしに変えたじゃん?在庫含めて全て」

「おう。どうなった?」

「ぷぷぷ、見事引っかかってくれて口から火はいてたよ。学習しないよねぇ、トシ兄も。写メ撮ったから後で見せてあげるね」

「ざまぁだな、あのマヨラー野郎。辛いモンはやったから、次は甘いモンはどうでィ?」

「いいじゃん。砂糖たっぷりのカスタードとかにしようよ」

「じゃあ屯所戻ったらすぐやってみようぜィ」

「おっけー!」


なんて話を続けながら道なき道を進む。口はよく回るけど寒さと痛みと疲れで手足の動きは格段に鈍くなっていた。そっと空を見上げると橙色に紺色が混ざり始め、夜が来ることを知らせていた。


「あーもう、洞窟でもかまくらでもいいから寒さしのげる所ないかなあ!」


こっちは休暇を貰ってスノボしに来たのに、何で体痛めて何もない森を彷徨い歩かなきゃいけないの!?神楽マジ覚えてろよ…

半ばイライラしながら焦燥感を声に出した。ねえ総悟!同意を求めるために隣を向けば、ポーカーフェイスが売りの兄は目を丸くして前方を見ていた。(別に売ってねーやい)


「総悟?何、また熊でもいたの?」

「…なまえ、俺たち神の子かも」

「は?幸村?でもまだイップスはできないなあ」

「いつかできるのかよ。じゃなくて、前見てみろィ」

「前って…」


熊だったらぶっ飛ばしてやる。と思いながら前を向けば―――なるほど、総悟の言う通りあたしたちは神の子かも。


「「…小屋みっけ」」





 
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