沖田双子妹
□誰であろうと笑顔であれ
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とっつぁんの部下に送ってもらうことになり、高級車に乗り込んだ。屯所へ向かう道すがら、あたしはまだ苦い顔をしているいさ兄のその頬を、
思いっきりつねった。
「いたたたたた!?」
「もう、いつまでそんな顔してんの?ほら、笑って!」
「す、すまん!直すからなまえちゃん手離して」
「えいっ」
「ぎゃあァァァ!!!両頬ォォォ!?」
暫くつねって、いさ兄の頬が赤く腫れ上がった頃に止めてあげた。自分でやったんだけど、涙を流して頬を擦るいさ兄が可笑しかった。
あたしが笑ってるといさ兄も困った顔をしながら笑顔になって、この人を纏っていた雰囲気も元に戻ったと思った。
「いさ兄は笑ってる顔が1番いいよ」
「!」
昔から思っていることを言うと、いさ兄は目を軽く見開いて黙ってしまう。気になったけど、もう苦い顔はしてなかったから大丈夫だろうと視線を窓の外に向ける。
屯所の外壁が見えてきた。あと少し車を走らせれば、見慣れた門に着くだろう。
1人窓の外を見ながら今日の夕飯何かなと考えていれば、急に後ろから腕を引かれ暖かいものに抱き締められる。
「…いさ兄?」
何だろうと後ろを向いて顔を覗くと、真剣な顔があった。
「なまえ、笑ってみろ」
「へ?」
「ほら、いつもみたいに」
「え、何いきなり」
「えいっ」
体の向きを変えさせられ、面と向かうとキュッと頬をつねられた。優しい力だから痛くなかったけど、いさ兄が真剣にあたしの頬をつねってるもんだから、
「ぶふっ」
「おっ」
「あはははは!そんな怖い顔で頬つねんないでよ!にらめっこみたいだよ」
頬にある手を掴みながら笑う。それに満足したのかいさ兄はいつもの笑顔に戻って、あたしの頭を撫でる。
「なまえも笑ってる顔が1番似合ってるよ」
キキーッとブレーキ音がして車が止まった。自動に開いたドアからいさ兄が運転手にお礼を言って出る。
「…そういうとこを妙の前で見せればいいのに」
自分の兄貴分の行動に、はあと溜め息を吐く。ったく、勿体ないなあ。でもそこがいさ兄らしいんだけどね。
「なまえちゃーん、どうした?」
「何でもない。今行くよ」
車内を覗き込んだいさ兄に笑って、開けたままのドアから外に出た。