沖田双子妹
□おでんの季節ですね
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「「ただいまー」」
「お、おかえりなさい」
玄関に入った2人を迎えたのは、青い顔をした山崎だった。どうしたのかとなまえと沖田が顔を見合わせると、遠くからダダダと廊下を踏みつけて走ってくる音が聞こえる。
その音にびくりとした山崎で悟ったなまえは、同じく悟った沖田にニヤッと笑いかけ、
「今日の夕飯は屋根の上ね」
廊下を走る人物が現れる前に玄関から姿を消した。
「うう、寒い。2人共中で食べましょうよ」
「まだ鬼が怒ってるから却下。それにこれ食べたら暖まるよ」
「?」
寒さに身震いした山崎の前に差し出されたのは、大きい器にこんもり入ったおでん。湯気の立つそれに「おおお」と目を輝かせ、渡された箸をもらう。
「え、あの俺もいいんですか?」
「よく考えたら買いすぎてねィ。大の器が3つになっちまったから協力しなせェ」
「ホントに買いすぎましたね。ってか俺の器ちくわ多っ!」
1人に1つの器。もくもくと食べ始めた2人に「いただきます」と言って、山崎も温かいおでんを口に放った。
屋根の天辺に腰掛け、火照った体に秋の風が涼しく感じる。なまえにしらたきを取られたり沖田にカラシを大量投下されながらも、たまにはこういうのもいいなァと山崎は思った。
「お腹いっぱい!ゴミはこの袋ね」
「さーて、降りるかね」
沖田が地面に降りようと梯子に手をかけると、先にかたんと梯子が揺れた。
そろっと覗くと、そこには予想通りというか、忘れていたというか、瞳孔かっ開いた鬼がいらっしゃいました。
「げっ」
「どーしたの総…」
「こんな場所にいやがったか」
さっきまで頬を火照らしていた山崎が、一気に真っ青になる。カンカンと梯子を登りきった土方が姿を現したときには、もう土気色だった。
「…山崎テメーもか」
静かな声だが、ふるふると震える肩が土方がキレていることを教えてくれる。
「あっれー、トシ兄も食べたかった?おでん」
「残念でしたねィ。もう食っちまいやしたぜ、おでん」
「ふ、2人とも!」
ケケケと笑う双子に、山崎は泣きたくなった。
おでんが美味しくて忘れてたけど、副長から逃げるために屋根に登ったんだ。そしとこの双子、副長をおちょくる天才だ。
そうして何も言わない土方を、恐る恐る見た。
「テメーら…何回見回りサボりゃあ気が済むんだ?ああ?山崎テメーも俺に報告無しで何食ってやがんだ……士道不覚悟で切腹しろやァァァッ!」
瞳孔の開ききった土方は素早く刀を抜いて、沖田双子+山崎目掛けて屋根の上を走り出す。
「ぎゃあああああ!すいません副長ォォ!」
「あはは、屋根の上走るの久しぶり!」
「ガキの頃やったもんな」
「まずはテメーだ山崎ィィ!」
「何で俺ェェ!?ちょ、2人共助け…」
「「身代わり…ゲフン、仲間のことは忘れない!」」
「身代わりって言いやがったよあの双子!だからおでん食わしたのか!珍しく優しいからって油断したァァァ!」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ!」
「ぎゃあああああ!理不尽んんん!」
山崎の叫び声を背になまえたちはぴょんと屋根から飛び降りる。軽々降りたその先に何の騒ぎだと庭に出ていた隊士達がいたが、2人は平然と「山崎がちょっとミスりやしてね」「救急箱用意しといてー」とのたまい部屋へと入っていった。
その後山崎をフルボッコにしてスッキリしたのか、土方からなまえたちへのお咎めはなく、腫れ上がった顔を擦りながら山崎が泣いたのはその次の日だった。
「…俺、なんでいつもこんな役目なんだろう」