短編
□満場一致で10月10日
1ページ/1ページ
ばたばたばたっ
部屋の外から廊下を走る音が聞こえる。銀時は微睡む意識の中で、なまえだな、と思った。
スパン!いい音を立てて襖が開く。差し込んできた太陽の光が顔に当たり、思わず眉をしかめ腕で顔を覆った。
「おはよ!銀時!」
入ってきたのは予想通りなまえだった。眩しくて見れないが、きっとにこにこ笑っているのだろう。語尾が力強い。
体を反転させて光から逃れ、変な起こし方をしたなまえをジト目で見る。しかし当の本人は満面の笑みを向けていた。その笑顔に文句を言う気が失せ、ダルそうに体を起こした。
「…元気いいな、朝から」
「まあね!」
「……ホントに元気いいな」
ふああっと欠伸をしながら伸びを1つ。その間もなまえは何が楽しいのかにこにこ笑っていた。布団から出て服を着替えると、待ってましたとばかりに手を握られる。
「!?」
「行こっ!」
「お、おい!」
突然手を握られたと思ったら、掛け声と共に足がもつれるくらいの速さで廊下を進む。なまえは刀では銀時たちに勝てないが、その分足の速さは1番だった。
ついてくのがやっとな銀時は一体何なんだよ…と前を走るなまえの頭を見るが、答えは返ってきそうもない。着くまで我慢するかと思った、その時、
「え?」
スパン!ほんの少し前に聞いたその音がまた耳に入った。ついで感じる前方へ向けての浮遊感と、無くなった手の温もり。銀時はワケが分からないままその浮遊感に身を任せた。
ドサァァ
「痛ってー!」
顔からスライディングし、畳に擦れる痛みでうっすら涙目になる。ホントマジで何なの?朝からいじめ?と顔を上げると、
「「誕生日おめでとう!銀時!」」
の言葉と、それを言ったであろう松陰と桂と高杉の姿があった。
「え?」
「え?ではない。もっと喜んだらどうだ」
「え、だって、え?」
「なんだ銀時。頭の中身までパーになっちまったかァ?」
「ちげぇよ天パ馬鹿にすんな!!!……つか、誕生日って、」
顔からのスライディングの体勢から起き上がって、銀時は気まずそうに松陰たちを見る。銀時をスピードに任せて部屋へ投げ入れたなまえは、ひょっこり高杉の隣に並んでいた。
「俺は…」
誕生日なんて、自分が生まれた日なんて知らない。だって俺は…
「銀時、今日がどういう日か知っていますか?」
「今日…?」
銀時は顔を上げて松陰を見る。なまえたちはにこにこ笑っていた。
「今日は銀時、貴方と私たちが初めて出会った日なんですよ」
「!」
「去年の10月10日に銀時と出会い、私たちの元で一緒に過ごすことを決めた日。…今日が貴方の生まれた日ですよ、銀時」
そう言ってふわり、頭を撫でられる。銀時は目を見開いたまま、順々になまえたちの顔を見ていく。
微笑んでいる松陰、何故か誇らしげな桂、ニヤリと笑う高杉、そして朝起こされた時に見た満面の笑みを浮かべるなまえ。
視線を畳に移し、銀時は照れたように頬を掻いた。
松陰は最後に一撫ですると、銀時の肩をずいっと部屋の上座に向け、明るい声で言った。
「さあ、始めましょうか」
机の上に並ぶのは、滅多に食べれない豪華な料理の数々。甘いもの好きな銀時のために、甘味も多く並んでいた。
もう食べていいのか?そう思って周りを見渡せば、彼らはまた笑っていて、
「「誕生日おめでとう!銀時!」」
「…………おー」
照れながらも笑った銀時を見て、なまえたちもまた嬉しそうに笑った。