沖田双子妹
□秋の祭りもオツだよね
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カランカランと下駄が鳴る。
「お待たせ!」
「やっと来やしたか」
いさ兄はともかくトシ兄にバレないよう、トシ兄が見回りに行ってる時を狙って屯所から抜け出した。
ただ心配するといけないから、退と女中のおばちゃんにはお祭りに行くって言っといた。
「浴衣なんて持ってたんだねィ」
「総悟だって」
あたしは紺地に赤と黄の金魚が泳ぐ、純和柄の浴衣。髪はお団子にして揺れる飾りの付いたかんざしで留める。
総悟は黒地の浴衣に灰色の腰ひも。何だか大人っぽい。
「行くか」
どちらからともなく手を繋ぎ、賑わう屋台を見て回った。
提灯が明るく照らし、お囃子が何処からか聞こえる。江戸一の秋祭りだけあって賑わいも規模もすごい。
お面を頭に付けて、まず総悟が行きたかったヨーヨー屋へと行く。
「オヤジ、2回で」
「はいよ。破れたらごめんねー」
ヨーヨーの入ったケース前に座り、どの柄にしようか真剣に選ぶ。
「釣ーれた」
「はやっ!え、取れたの?」
手元を見れば青いヨーヨーが釣れてた。嘘、初めてからまだ秒単位だよね?おじちゃんもびっくりな顔してるし。
余裕な顔でヨーヨーをばしばしと叩きながら、総悟があたしの手元を覗いた。
「何色にすんの?」
「ピンクがいい」
「じゃあこれにしろィ」
総悟が指したのは、誰が見ても取りやすい位置に浮かんだゴムの輪っか。うん、これなら取れそう。
「せいっ」
ブチ
「まいど〜」
おじちゃんの明るい声が恨めしい。
「そういやなまえ、ヨーヨーとか苦手だったっけ」
「…うん。あたしも忘れてたよ」
実は昔からヨーヨーだったり金魚すくいだったり、1つも取れたことがなかった。総悟に言わせれば手の動きが遅いらしいけど、さっきは早くやったつもりだったのになあ。
はあ、と溜め息を吐いて意気消沈するあたしの頭に、ボカッと何かが当たる。落ちる寸前でキャッチすれば、それは総悟が取った青いヨーヨーだった。
「え?」
「やる」
「でもせっかく総悟が」
「時間ねーしさっさと行くぜィ」
有無を言わせずあたしの左手を取って、ずんずん歩き出す。手元には丸いヨーヨーがぼよんと動いた。
「ありがとう」
背中に向かって言えば、返事の代わりにギュッと手を握る力が強くなった。