沖田双子妹
□迷子の迷子の子猫ちゃん
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源家は源義夜を開祖に持ち、今から約600年前に開かれた鎌倉幕府を担っていた家。俺でも知ってる源頼昼や義熱はこの家の出だ。
で、そんな遥か昔に栄えた家は、今は将軍家の親族としてかつてほどの力はないものの権力を誇っている。
俺たち末端の真選組が簡単に御目に掛かれる存在じゃない。
「…頼夜ってボンボンだったんだね。かき氷食べたことないって言ってたから、それなりの坊っちゃんだとは思ってたけど」
「源家なんて滅多に表に出てこねーからなァ。その嫡男がこんなとこにいても誰も気付かねーよ」
土下座を繰り返す男たちに苦笑いの頼夜はソイツらと一言二言話して、かき氷のカップを持ったまま俺たちの方へ走ってきた。
「頼夜様、どーしたんでさァ」
「!、頼夜…です」
将軍のいとこでもあるからと呼び名を変えたことに気づいた頼夜が、俯いてぎゅっとカップを握る。
それを見てなまえと顔を見合わせ、
「お家の人見つかってよかったね、頼夜」
「もう迷子になるんじゃねーぞ」
そう言って丸っこい頭を撫でてやれば、うん!と嬉しそうに頼夜は笑った。さっきまでの大人びた顔でお付きの野郎たちに接してた顔とは違う、ガキくせぇ顔。こっちの方が似合ってらァ。
それからもう帰るとのことなので、プールの出口まで見送ってやることにした。
「2人は真選組の人なんだよね?どこに住んでるの?」
「むさ苦しい男だらけの屯所に住んでるよ」
「むさ…?僕の家は江戸じゃないんだけど…」
「たしか相州だったか」
「うん。それでね、あの」
スーツに着替えた護衛の男たちが、頼夜様、と呼ぶ。時間が来た。口籠っていた頼夜はキュッと口を結び、真っ赤な顔で俺たちを見上げた。
「僕、あの…っ、次もまた会える!?」
俺はガキに好かれる質じゃねーんだけどねィ。
なまえを見ればコイツも俺を見てて、へらりと笑った。
「もちろん!また会おうね!」
「次はかき氷以外にも美味いモン教えてやらァ」
「あ、ありがとう!」
護衛からもらった紙に俺となまえの携帯番号を書き、頼夜に渡す。その紙とかき氷のカップを大事そうに持って、頼夜は男たちに囲まれながら帰っていった。