短編

□お誕生日おめでとう!
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「あっちー」


ミンミンと蝉が煩い8月。銀さんや神楽ちゃんが扇風機前から動かなくなる夏が、僕は嫌いじゃない。

動かない2人に一言告げて、スーパーまで買い物に行った。安かったトイレットペーパーと少し重たい袋に両手を塞がれながら、帰り道を歩く。

この暑い中いつも行く大江戸スーパーより遠いスーパーに来たのは間違いだった気もしたけど、神楽ちゃんの酢昆布がここでしかまとめ買いセールしてなかったし仕方ない。

銀さんみたいに原付を持ってないから、汗を流しながらひたすら歩く。


はあ、と疲れから息を吐いたとき、横道から声をかけられた。



「新八じゃないか」

「なまえさん!」


見てるだけでも暑い真選組の隊服を着てるのに涼しい顔でにこりと笑うのは、みょうじなまえさん。銀さんの幼馴染みで真選組副長補佐だ。

なまえさんは見回り中だったらしく、担当経路はここなんだと教えてくれた。


「こんな遠くまで買い物かい?」

「はい。色々安くって」

「すっかり万事屋の主夫だな。銀時は何やってるんだか」

「あはは、扇風機の前にいますよ。なまえさんは一人で見回りですか?」

「いや、ああ来た」


そう言って前を見ると、上着を脱いだ土方さんが暑そうに歩いていた。


「土方さんこんにちは」

「おー。買い物か?」

「はい」

「こんなとこまで御苦労なこって」


フーッと吐いた煙が僕に当たらないよう、そっと横を向いてくれた。瞳孔開いてるし怖いイメージあるけど、こういう優しさに女の人は弱いんだろうなあ。

といってもこの人が好いてほしい人は僕から見ても鈍い。とっても鈍い。土方さんも苦労してるなあと思いながらその人の方を向く。


「ねえ新八。今時間ある?」

「今日は依頼ないんでありますよ」

「なら屯所に遊びに来ないか?」

「…はいっ!?」


ちょっとお茶しない?くらい軽く言われて危うく頷きそうになった。
真選組屯所と言ったら交番と比べ一般人は早々お世話にならない場所で、高い塀に囲まれてるから中の様子は全く知ることができない。
僕も1回か2回しか入ったことがないけど、強面の隊士がたくさんいて少し怖かった。

そんな所に遊びに行く!?


「え、もう一回言ってもらってもいいですか?」

「屯所に遊びに来ないか?」

「一字一句寸分違わずありがとうございます!で、でも遊ぶって…」

「ああ、お茶しない?」


やっぱりお茶だったかァァァ!

い、いやおかしいだろ。なまえさんとお茶するのが嫌なんじゃない。むしろこんな綺麗な女性とお茶できるなんて幸せだ。けど何で屯所!?あそこで一般人がお茶していいの?まったりした空気流していいの?


そろりと土方さんを見るといつの間にか車を持ってきていて、運転席で煙草を吹かしていた。

え、放置?


「おや、時間がない。行くよ新八」

「え、え、えええええ!?」


後部座席に押し込められ、起き上がった時には車は発進していた。…これ端から見たら誘拐なんじゃ。


「いや、現行犯逮捕だな」

「余計最悪だわァァァ!」


つか心の中読むなァ!!





 
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