短編

□そして気付く
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晋助は可愛い。

そうまた子に言ったら目を見開いて驚かれ、危うく発砲されそうになった。次に万ちゃんに言ったら弾いてた三味線の弦が切れてサングラスがずれた。最後に武市に言ったら「そんなとこもまた…しかしもう少し若かったら」とかなんたら言ってたから腹に一発決めといた。


「みんなおかしいよねぇ」

「……おかしいのはテメーだ」


窓際に座り脇息に持たれて煙管を吹かす晋助は、みんなの反応を聞いて呆れたように私を見た。


「えー?晋助は可愛いよ」

「…」


巷じゃ極悪非道だの黒い獣だのエロテロリストだの言われてるけど、私から見た晋助は違う。(あ、エロテロリストは合ってるか)

朝おはようって言うと小さく笑って返してくれるし、着物を渡すと今日の柄は何か興味津々に見るし、ご飯の時アーンってやると少し躊躇いながらも口を開けてくれる。

実は好きなかりんとうを街で買ってきてお土産に渡すと、素っ気なく受け取るもののポポポと小花が散る。この前数量限定のかりんとう渡したときの喜び様は凄かった。すんごく可愛かった。カメラ向けたら叩き落とされたから、この目にしっかり焼き付けといた。

まだ呆れた視線を向ける晋助にへらりと笑えば、苦笑して窓の外に視線を移す。

ほら、今の表情だって…


「あれ?」

「…あ?」


小さく溢した声を聞き取った晋助。いつも私のどんな声も拾い取って、溢さないように包んでくれる。それは小さい頃から変わらない。

例え音に出さなくても、晋助は気づいて手を差し伸べてくれる。


「そっか、」

「何がだ」


立ち上がり晋助の隣に座る。脇息を退かし私に凭れて腰を抱いた晋助の顔を覗き、にっこり笑う。


「晋助は可愛いけど、それ以上に優しいんだ」


僅かに見開いた右目を捉え、薄い唇に自分のを合わせる。あむ、と唇で挟めば答えるように頭を押さえられ深いキスをされる。


晋助は可愛い。
私のどんな行動にも反応して、人には見せない晋助を見せてくれるから。

けどそれは、私がどういう気持ちでその行動をしたのか理解しようとしていたから。だからどんな些細なことにも反応して、私の気持ちを分かろうとしてくれる。


晋助は、優しい。


唇から顔中に降るキスに笑みが溢れる。晋助も笑ってるし、ああ幸せだなあと心から思った。





 

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