沖田双子妹
□合図はいつ?
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ザァッと風が吹いた。
「そろそろ、かなぁ」
栗色の髪を風に遊ばせながら、少女は笑った。
「ホシが動いた」
隊士たちを前にして、近藤が険しい顔で言う。
「俺たちが去年から追っている真山一派が、明日の深夜江戸湾のコンテナに集まるという情報が入った」
「ヤツらは高杉に比べりゃ小さいが、それでも過激派の一等だ。奇襲をかけて一気に叩く。1人として逃がすんじゃねぇぞ」
いつもより厳しい目を向ける土方の言葉に、背筋が伸び空気が張る。
なまえはそれを肌で感じながら、前にもらった真山一派の資料にもう一度目を通す。
「山崎の情報からヤツらはコンテナにて集会を開くらしい。入り口は表と裏に1つずつ。一から三番隊は俺となまえと一緒に表、四から八番隊は近藤さんと裏から行け。残りの隊は屯所に待機だ」
「「はいっ!」」
その後他の連絡事項も伝え、隊士たちは部屋から出ていく。自分の隊長に聞きに行く者、部屋に戻る者、深夜の見回りに出る者。
それらの足音が遠ざかるのを確認して、なまえは資料から顔を上げる。
「ねぇ、真山一派って強い?」
「言っただろう。過激派だって」
「過激派なのは分かってるけど、例えば高杉一派で言うなら河上レベルの人はいる?」
今日の夕飯何?くらいの軽さで聞くなまえに、土方は眉をしかめる。
「んなこと聞いてどうすんだ」
「質問してるのはあたし。まあ資料見た限りじゃいなそうだけど」
「河上レベルはいねぇよ。けどもしいたとしたらどうすんでィ」
「えー?」
黙ったままの近藤と、土方、沖田の目がなまえへと向く。
なまえはその強い視線を感じながら、
「どうするも何も、聞きたかっただけだよ」
きょとんとした顔で返す。
だって一応覚悟必要じゃん?ってかみんな顔怖いと笑ったなまえに、知らず顔を強張らせていた沖田たちも元に戻る。
「まあいようがいまいが、ホシは1人残らずこのなまえちゃんが捕まえてあげるから任せなさい!」
ドンッと胸を叩いてふんぞり返るなまえを、近藤がよしよしと頭を撫でる。もう可愛くて仕方ないんだろう。さっきの険しい顔はどこへやら、目尻が下がりデレデレしている。
「…なまえ、テメーは俺たちの後ろで大人しくしとけ」
「しょうがねーからお兄様が守ってやりまさァ」
「ならあたしは一派の頭を狙うね」
「え、話聞いてた?大人しくしてろって言ったよね?」
「近藤さんは前来ちゃダメだよ?」
「だっはっは。分かってるよ!俺にはこの虎鉄と」
「明日の討ち入りは夜かァ。夕飯おばちゃんに肉にしてもらうように言っとこ」
「あとドラマ予約しとかねーと。土方さん頼みまさァ」
「テメーでしろ。あ、前回の消すなよ」
「3人とも…俺話途中なんだけど」
ぐだぐだとした会話に戻った時、部屋の前を1人の隊士が横切る。
「大和!」
「あれ、なまえまだここにいたんだ」
大和と呼ばれた男は、優しそうな目をなまえに向ける。
「久しぶりにあたしの部屋でウノしない?和泉たちも呼んでさ」
「いいね。じゃあ風呂上がり集合で」
去っていく大和に手を振り、なまえは土方の肩を叩く。
「…土方の肩。残りは肘」
「いきなり何言ってんだよ!」
「「ぶふっ」」
「笑うなテメーら!!」
「肘はおいといて、明日は程よく戦うから心配しないで」
「程よくって」
「じゃあお風呂入ってきまーす」
立ち上がり部屋から出ていった後ろ姿を沖田は見つめる。
「アイツぜってぇ前出やすぜ」
「だろうな。突っ込んでかないようよく見とけよ」
「分かってまさァ」
「しっかしなまえちゃんとウノ、俺もやりてぇなァ」
「また今度にしてくれ。つかこんな時間からウノって…。アイツ明日朝起きれねぇな」
月は既に真上で、部屋から見える庭を照らしていた。
決行は明日。月は満月になる。