沖田双子妹
□気配ってどうやって消すの
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中庭になまえが立っていた。
隊士の誰もが屯所のどこに居たっておかしくはないんだが、庭にぽつんと立つ後ろ姿はいつものアイツらしくなかった。
―――――――なまえ?
そう呼び掛けようと震わした喉は、なまえが見ていたものに気付いたことで止まる。
なまえの愛刀は3年前に見たときから変わらない。
俺なんて何度も折っちまってるから3年前とは違う刀だが、アイツは相当大事にしていて討ち入りが終わる度に鍛冶屋に行く。
刃零れのない刀は、どんよりとした雲の下でもキラリと光っていた。
なまえはこちらに背を向けたまま愛刀を見つめ、微動だにせず立っている。
何かあったのだろうか。
最近の討ち入りはなまえたちのおかげもあって、皆死なずに帰ってこれている。真山一派の時だって死傷者は俺もトシも覚悟の上だったが(それほどの過激派攘夷志士だった)、コンテナ内が暗闇になったその一瞬で、なまえたち≠ヘ敵を捕らえた。
暗闇に慣れるのに気を張っていた俺たちの一瞬の隙を狙われ、なまえがいなかったらトシは確実に撃たれていただろう。
3年の月日はこうも差を広げたのかと、なまえの成長を喜ぶよりも少し悲しくなった。
「いさ兄」
背を向けたまま呼ばれた自分の名前に、ビクリと肩が跳ねる。
そういや気配消してなかったと苦笑して、おう!と返した。
「何してんだ?こんなとこで」
「んー、刀見てたの」
「相変わらず綺麗だなァ。なまえの刀は」
「本当にそう思う?」
「おう。刃零れもしてねーし、柄も汚れてないし、俺のと違って綺麗だぞ」
縁側から降り、刀を見つめたままのなまえの隣に行く。
綺麗な刀と言うのは本当だ。隊士の中じゃきちんと手入れせず固まっちまうヤツもいるくらいだ。トシも綺麗な方だが、なまえ以上に刀を綺麗にしてるヤツはいないだろう。
「切れ味は大事だからね。総悟も結構綺麗にしてるんだよ?」
「たしかにアイツも刀の手入れよくしてるな。あれ、刀大事にできてないの俺だけ?」
「何本も折ってるのはいさ兄だけじゃない?可哀想な武士の魂〜」
「うっ、いや!虎鉄たちの魂はこの刀と共にあるから大丈夫だ!」
「あ、刃零れしてる」
「何だってェェェ!?」
自分の刀を鞘に戻し、俺の刀を見始めたなまえにはいつもの笑顔が戻っていた。
刀が放つ光より、コイツが笑って振り撒いてくれる光の方が断然良い。
鍛冶屋に行こう!と腕を引っ張るなまえに笑って、綺麗にしてもらうかと玄関へ向かった。
(近藤さん、オタクになって帰って来ないでくだせぇよ)
(はははっ、そうだな!)
(トッシー見たかったなあ)