短編
□生まれてきてくれてありがとう
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その日は三日月だった。
1日の仕事が終わったなまえは縁側でのんびりと煙管を吹いていた。ふう、と吐いた煙は月にかかる雲のように漂い、そして消えた。
「まだ起きてたのか」
「トシこそ」
気配がしてたのでさして驚かず、なまえはそのまま煙管を吸う。声の主は空を見上げ、今夜は三日月かと見た目と似合わないことを言う。
「何か用か?」
「用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」
「そういう意味じゃないけど」
土方は縁側に座ると懐から煙草を取り出し、マヨ型ライターで火をつけた。それを横目で見ながら寝ている隊士に気を使い、少し小さめに話す。
「なあ。いさおに何あげたらいいと思う?」
「近藤さんに?もう宴会の用意もケーキの用意もしてあんぞ」
「とか言ってトシがいさおに着流し買ったの知ってるんだからな」
「な、なんで」
「監察をなめるなよ」
そんなことに無駄に能力使うなよ。ぶつぶつ文句を言う土方に笑って。
沖田や古株の隊士たちは、個人でもプレゼントを買っているのを知っている。近藤に拾われて初めて迎える、彼の誕生日。さてどうしよう。
「んな悩まなくてもよ」
1人考えていると、ぽつりと土方が言った。
「オメーがあげたものならあの人は何だって喜ぶよ」
「…」
「俺だって毎年悩むけど」
「…」
「あの人は毎年喜んで受け取ってくれる」
「…」
「何だって、は言い方雑かも知んねーけど、オメーが心を込めて選んだもんなら何だって大丈夫だ」
ふう、と白煙が宙を舞う。勢いのいいそれは尾ひれの付いた流れ星のよう。
「そうか」
それだけ返して、なまえは微笑んだ。
なまえにとって近藤勲という人物は特別だ。土方や沖田も特別だと言えるが、近藤はまた違った。
だからその彼が生まれた日を祝うプレゼントには、せっかくなら良い物をあげたい。しかし何をあげたら良いのか分からない。
しかしその悩みに覆われていた心も土方の言葉で少し楽になった。すっきりした顔でなまえは空が明けてすぐに屯所から姿を消した。