短編

□生まれてきてくれてありがとう
1ページ/3ページ

 




その日は三日月だった。

1日の仕事が終わったなまえは縁側でのんびりと煙管を吹いていた。ふう、と吐いた煙は月にかかる雲のように漂い、そして消えた。


「まだ起きてたのか」

「トシこそ」


気配がしてたのでさして驚かず、なまえはそのまま煙管を吸う。声の主は空を見上げ、今夜は三日月かと見た目と似合わないことを言う。


「何か用か?」

「用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ」

「そういう意味じゃないけど」


土方は縁側に座ると懐から煙草を取り出し、マヨ型ライターで火をつけた。それを横目で見ながら寝ている隊士に気を使い、少し小さめに話す。


「なあ。いさおに何あげたらいいと思う?」

「近藤さんに?もう宴会の用意もケーキの用意もしてあんぞ」

「とか言ってトシがいさおに着流し買ったの知ってるんだからな」

「な、なんで」

「監察をなめるなよ」


そんなことに無駄に能力使うなよ。ぶつぶつ文句を言う土方に笑って。

沖田や古株の隊士たちは、個人でもプレゼントを買っているのを知っている。近藤に拾われて初めて迎える、彼の誕生日。さてどうしよう。


「んな悩まなくてもよ」


1人考えていると、ぽつりと土方が言った。


「オメーがあげたものならあの人は何だって喜ぶよ」

「…」

「俺だって毎年悩むけど」

「…」

「あの人は毎年喜んで受け取ってくれる」

「…」

「何だって、は言い方雑かも知んねーけど、オメーが心を込めて選んだもんなら何だって大丈夫だ」


ふう、と白煙が宙を舞う。勢いのいいそれは尾ひれの付いた流れ星のよう。


「そうか」


それだけ返して、なまえは微笑んだ。 





なまえにとって近藤勲という人物は特別だ。土方や沖田も特別だと言えるが、近藤はまた違った。

だからその彼が生まれた日を祝うプレゼントには、せっかくなら良い物をあげたい。しかし何をあげたら良いのか分からない。

しかしその悩みに覆われていた心も土方の言葉で少し楽になった。すっきりした顔でなまえは空が明けてすぐに屯所から姿を消した。





 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ