短編
□息もできない、誕生日
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「ん…」
人々がまだ活動を始めていない夜明け、近藤は目を覚ました。今日は非番だったが、毎朝の朝稽古に合わせた体内時計に起こされてしまった。
まだまだ寝れる。そう思いもう一度眠ろうと、ごろん、体の向きを変えると、
「…」
「すー」
「う、おおおおお!?」
昨夜それぞれの部屋で寝たはずのなまえが隣に寝ていた。
近藤の大声に隊士たちは飛び起き、刀片手に部屋に転がり込んできた。しかし部屋にいるのが自分達の大将となまえだけだと分かると、朝から騒がないでくださいよーと文句を言いながら戻っていった。
それにすまなそうに謝る近藤に対し、なまえは船を漕きながら座っていた。
土方と沖田ももちろん部屋に転がり込んできていて、2人は元凶であるなまえの頭をおもいっきりひっ叩いた。
「痛ったああああ!何すんの!」
「バカヤロー!何してんのかはこっちが聞きてーよ!」
「何って………添い寝?」
ボカン!
「っ〜〜〜〜」
「そ、総悟それは痛いぞ」
沖田が半眼になって拳骨で殴る。なまえは涙目だ。布団の上に胡座をかく近藤は隣に座るなまえの頭を撫でながら、でもホント、と首を傾げた。
「何で俺の布団で寝てたんだ?昨日おやすみーって別れたよな?」
「昨日はね。あたしもちゃんと総悟と寝たし」
「だろう?まあ別に一緒に寝てもいさ兄は全然構わないんだけど!むしろ嬉しいけど!」
「近藤さんはいいかもしんねーが、朝早くに大声で起こされた俺たちが納得いく理由なんだろうなァ?なまえ」
土方が煙草を口に加えていつもより低い声で言う。真選組には低血圧なヤツばっかだなと近藤はひそかに思った。ちなみに総悟となまえも寝起きの悪さはピカイチだ。
理由っていうか…と、なまえは事のあらましを話始めた。
「まず、いさ兄の布団に入ったのは0時過ぎたころかな」
「俺たちが寝てすぐじゃねーかィ」
「そっから意味分かんねーよ。何で入ったんだよ。ガキの頃じゃあるめぇし」
「それは、ほら」
寝癖の付いた頭で目を擦りながら近藤を見た。ちなみに本日のなまえの格好は、この前近藤が買ってきた水玉のワンピースの寝間着だ。
「1番におめでとーって言いたくて」
「何を?」
「だから今日いさ兄誕生日じゃん」
「「「………あ」」」
そうしてなまえは、お誕生おめでとーと笑った。そしてすぐおやすみーと布団に潜る。
「…」
最近は忙しかった。それはもう盆と正月と松平の厄介事が一度に来たくらい。
日々仕事に追われ土方や沖田どころか当事者である近藤までも、なまえに言われるまで今日が誕生日だと言うことを忘れていた。
「…だから俺、今日非番なんだ」
真選組は誕生日の者に当日非番を与える。1日寝てもよし、彼女とイチャコラしに行ってもよし、溜まってる仕事を片付けるもよし。
非番の意味も忘れるほど忙しかった日々に、ホントに大変だった…と遠い目をしつつ、その中で自分の誕生日を忘れないでいてくれた可愛い可愛い妹分の優しさに目頭が熱くなる。
「っ、なまえェェェ!」
「むぐっ」
ぶわあああと涙を流した近藤は布団にくるまっているなまえを抱き締めた。胸板に押し付けられて最初はわたわたしていたなまえも、途中ぱたりと動かなくなる。
「いさ兄は嬉しいよおお!良い妹が持てて俺ァ幸せ者だ!」
「近藤さん、なまえは俺の妹でさァ」
「じゃあ娘だあああああ!」
「お、おい。その前になまえ動かなくなったんだけど」
「今日は1日なまえと遊ぶぞ!そうしようそうしよう!どこ行こっかなー」
「近藤さん、俺も行きたい」
「テメーは仕事があるだろうが!つかマジなまえ離してやれよ!死ぬから!」
嫌な予感がした土方が渾身の力でなまえを剥ぎ取る。
「…」
「…」
「あり、息してねェ」
「「なまえェェ!!!?」」
「き、救急車呼べ!」
「救急車ァァァァ!」
「意味がちげぇよ近藤さん!つか懐かしいな!」
近藤の腕の中で気を失ったなまえが次に目を覚ましたのは、太陽が高く昇った昼のことだった。ちゃんちゃん。
「ちゃんちゃんじゃないよ!あたしちゃんと誕生日覚えてたのに何この仕打ち!いさ兄なんてもう知らない!ケツ毛に襲われて毛ダルマになれ!」
「いさ兄が悪かったから刀振り回さないでェェ!」
「それならもうとっくに毛ダルマでさァ」
「えええ総悟まで!?」
「ああもう双子共仕事しろォォォ!」