Halloween in Moon World

□【8th/Another】それぞれの道
1ページ/13ページ




カロデアが退出した後のハロデアの部屋にて、死神はようやく肩の力を抜いた。

「…もういいだろ」

作り笑顔と敬語をやめて大きくため息をつく。
「仕事」の時間は終わりと判断したらしい。

「あら、お勤めごくろうさま」

ハロデアはクスリと笑うと机に両肘をついて小さな死神を眺める。
この二人は随分前からの知り合いのようで、そのせいか死神はハロデアに対して敬語を使おうとしなかった。
ハロデアのことを力のある存在と知りながら対等に渡り合おうとする人物はそう多くない。

「カロデアの様子はどうだった?」

「すぐに音を上げると思っていたが、自ら希望して最下層の無間地獄を見学していた。聞いていた人物像よりは根性がありそうな感じはしたな」

「自ら希望して…?それは私としても意外な行動ね」

「そうなのか?」

死神は姿を消した後も陰からカロデアの後を追いかけていた。
万が一帰ると言い出した時にすぐに対応できるようにというのが一番の理由だが、死神側にも都合があった。
弟子を連れて地獄の様相を見学させていたのだ。
死神であればハロウィン以外でも地獄に立ち入るのは可能だが、何の用もなしに出向くような場所でもない。
地獄とはある意味他人の仕事場だからだ。
それゆえ死神は今回の取次ぎの仕事を弟子の経験の場としても活用していた。

「今回地獄に行くって聞いた時もあの子は真剣だったわ。何かあったのかしら」

「未熟なものの成長速度は予測し難い。知らぬ間に追い越されるかもな」

「確かに伸びしろは未知数かもしれないわね。…そういえば、未熟と言えばあなた弟子が出来たんでしょ?」

「あっ――」

「帰ってきたら紹介するって言ってたけど、その子はどこに…死神?」

死神は明らかに焦った表情を浮かべていた。
表情変化がないタイプではないが、ここまで分かりやすく(不機嫌以外の)感情が表に出ているのを見るのはハロデアにとって珍しいことだ。

「わ、忘れてきた…」

「え!?」

カロデアの前で「弟子がいる」と話題として持ち出したくせに、肝心の本人を地獄へ置き去りにしていることに死神はようやく気が付いた。
随分大きく構えた手前、今ここにカロデアが居合わせていないとはいえかなり恥ずかしい。

「迎えに行かないと…。ハロデアも流石にもう休むだろう?紹介はまた今度にしよう」

「あらあら。きっと心細い気持ちであなたのこと待ってるわよ。早く行ってあげて」

「悪いな。それじゃこれで」

行きと同じようにその場に冥道を出現させた死神は穴に飛び込むようにして一瞬で姿を消した。
あわただしく去っていった旧友をハロデアは困ったような笑顔で見送る。

日常に戻った空間でハロデアは一人、死神からの報告を反芻した。
カロデアの内面的な変化は思っていた以上に大きいようだ。
――未熟なものの成長速度は予測し難い
その言葉に伸びしろは未知数だ、ハロデアはと返したが、そもそもカロデアは存在自体が未知数と言える。

ドゥルジが関わっていることと、ルシファーの表現では彼女はカロデアの母親であるということは分かっている。
しかし悪神であるドゥルジとカロデアを比べてもその類似点は少なかった。
つまり実際に血を分けたような親子関係ではない可能性が高い。

――あたしは知らないことを知りたい。たくさんの場所に行って、自分の目で見て、直接感じたいの
明確な知識欲を見せ始めたカロデアの行動の行きつく先にハロデアは察しをつける。
今までならカロデアの心を守るために引き留めようとしていたかもしれない。
しかしそれももうやめるべき段階にきていることをハロデアは理解し始めていた。
家族のように見守ってきた立場としてはまだまだ守ってやりたい。
その反面、本人の成長のチャンスを邪魔したくもなかった。

(次は私が覚悟を決める番、なのかもしれないわね…)

ハロデアは静かに目を閉じ、そのまま思考の底へと深く沈んでいった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ