すーさいどちゃん!
□健康診断
1ページ/1ページ
「あら。」
朝、よし子がポストを確認すると、市からはがきが来ていた。
「予防注射のお知らせね。そういえば今年はまだだったわ。」
リビングに戻ってくると、すーちゃんは丸くなって寝ていた。
夜型のすーちゃんの朝は遅い。
「すーちゃん、朝よ。」
「…むー」
すーちゃんはゴロゴロとその場から布団をかぶったまま転がると、タンスに激突したところでまた寝息を立て始めた。
声をかけたり揺さぶったりしても、起きる気配がない。
先に朝ごはんを作ろう、とよし子は思い立って、もうしばらく寝かせてあげることにした。
目玉焼きや焼き魚が定番で楽だが、今日は野菜スープでも作ろう。
トーストをかじりながらでもいい。
具材を切ってコンソメを入れるといい匂いが立ち上る。
「…よし。」
スープの味を確認したよし子は野菜スープを器に盛り、すーちゃんを起こすべくリビングに戻った。
そこには、
「やはり野菜スープでしたか。当たりです。」
フォークを構えたすーちゃんがいた。
「なんだ、起きてたの。野菜スープだってよく分かったわね。」
「よし子さんが何かを切る音、鍋を出す音、水を注ぐ音、そしてコンソメの臭いで判断しました。」
「ドヤ顔で説明する前に布団から出なさい。」
「お断りします。」
布団を着たまますーちゃんはキャベツにフォークを突き刺した。
そして何故かそのキャベツは食べずに先にスープをすする。
その後にキャベツも食べた。
(今のキャベツをあらかじめ刺す行為の意味は…)
よし子はツッコミを心の中にしまい、予防接種の話を始めた。
「すーちゃん、さっき予防注射のはがきが来てたわ。この後行きましょうよ。」
「嫌ですよ」
すーちゃんは顔をしかめた。
眉間のしわがものすごく深いが、そんなに嫌なのか。
子供は注射嫌いも多いけれど…
「病死できるならそれでもいいので。」
嫌がる理由が不純だった。
よし子は無理矢理すーちゃんを病院に引っ張っていった。
「むー。」
待合室で、すーちゃんはコナソの漫画を読みながらむくれていた。
読むスピードがものすごく速い。
横から覗き見しているよし子が右のページを読み終わる頃にはすーちゃんは次のページをめくる。
おかげでよし子の頭にはとびとびのシナリオしか入ってこない。
「田中さーん。田中よし子さんどうぞー。」
看護士がよし子の名前を呼ぶ。
「ほら、すーちゃん行くわよ。」
「えっ…青酸カリのシーンまでもう少しだったんですが…」
「後で読めばいいじゃない。」
意味不明なことを言うすーちゃんの背中を押して、よし子は診察室に入った。
先に、よし子が注射をすることになった。
「体調は良好ですね。では、あちらの席で注射してもらってください。その間にお子さんも終わらせるので。」
よし子が行ってしまった後、すーちゃんは診察室の丸椅子に座った。
じーっと医師を見つめる。
「えーと、事前の検温では平熱ですね。どこか具合の悪いところはあるかな?」
医師の質問に、すーちゃんはその場にそぐわない表情で話し始めた。
「検温ごときままごとで俺の中に渦巻く呪詛を見破る事など出来ない。あの夜俺は誓った。地獄の劫火に焼かれようと、この身を切り刻まれようと、胸の内に抱く野望を必ずや――」
「厨二病、と…。では、あちらの部屋にどうぞ。おーい、連れてってくれー」
「これだから最近の大人はつまらないですね」
捨て台詞を吐きながら、すーちゃんは看護師に連行されていきましたとさ。