すーさいどちゃん!
□【春】自由研究
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ピンポーンと、よし子宅のドアホンが鳴る。
「はいはーい」
エプロンで手を拭きながら玄関に向かうよし子。
ドア穴から誰かを確認しようとすると、ドアの向こうの主がしゃべった。
「よし子さん私です」
「なんだ、すーちゃんなのね」
安心してドアに手をかけると、鋭いすーちゃんの声がした。
「甘い!!」
「えっ!?な、何が!?」
慌ててドアから手を放す。
わずかに開いたドアが、再び外との干渉を絶った。
はあ、とすーちゃんのため息が聞こえる。
「いいですかよし子さん。必ずドアの外は確認しないとダメです。私がもし何者かに脅されていて、よし子さんを油断させるために犯人が私をしゃべらせていたというシチュエーションだったら…!確実にアウトでしたよ。」
「どんだけ限定的なシチュエーション想定してるの!?」
「まあ今回は安全です。開けてください」
今日も平常運転なすーちゃん。
よし子がドアを開けてやると、小さな体に似つかわしくない大きな段ボールを抱えている。
「あらやだ。なあにこの段ボール。重たいでしょう。」
「…そうですね。このやり取りを始める前から腕の筋肉が崩壊しそうです」
すーちゃんは言葉の淡々さとは裏腹に歯を食いしばって踏ん張っている。
「だったらなんであんなやり取りしたのよ!!」
慌ててよし子はすーちゃんを家に入れた。
「疲れた。」
居間にドサッと荷物を降ろすすーちゃん。
両腕をぶらぶらと休ませる。
「何を持って来たの?」
開いている段ボールを覗くと、何かのパーツや布が入っている。
「自由研究の材料です」
既に工具を手にしているすーちゃん。
一体何を作ろうというのか。
しかしそんなことより訊きたいことがよし子にはあった。
「…早くない?」
現在春真っ盛り。
夏休みはまだまだ先だ。
「何言ってるんですか。いつ作ったって、『夏休み中に作りました』って言えば夏休みの成果になります」
材料を続々と取り出しながら、すーちゃんは当たり前そうに語る。
「堂々と嘘つこうとしてるんじゃない!」
「どっちにしろ、作ることには変わりないので」
それだけ言うと、すーちゃんは材料とにらめっこを始めた。
一度言ったらどうせ聞かないだろう。
好きにやらせておこう、とよし子は席を外した。
しばらく作業の音が鳴り響いていたが、ようやく静かになった。
「出来たの?」
様子を見によし子が居間に入ると、すーちゃんは椅子に座って足をぶらぶらさせていた。
「はい」
「どれ?」
「これです」
短いやり取りの後、すーちゃんはギッギッと椅子の上で跳ねた。
よく見ると、この椅子に見覚えがない。
「まさか椅子を作ったとでも?」
「そのまさかです」
正解、とすーちゃんはゲッツのポーズをした。古い。
「キャスター付きの椅子欲しかったんです」
だからって作らなくても…
呆れたというかすーちゃんの万能さに放心するよし子。
「これなら、立ち上がった後に向こうに蹴ればスーッと滑っていくじゃないですか。」
こう…とデモンストレーションをして見せるすーちゃん。
「――ハッ…!」
よし子は気が付いた。
これは首吊り用の椅子であると。
「♬」
しかし自分の椅子に少し嬉しそうな表情をするすーちゃんをみると、すぐには処分できない気持ちになってしまうよし子であった。
・‥…TO BE CONTENUED…‥・