Halloween in Moon World

□【5th&half】安寧の暗闇と漆黒の自由
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ルシファーが屋敷の住民として新たに加わってしばらくした頃のこと。
カロデアは軽やかな足取りでルシファーの部屋に向かっていた。
表情も明るく、今日は非常に機嫌がいいようだ。
ルシファーが住まうことにした来客用の部屋の扉の前でお利口に身なりを整え、軽快にノックする。
以前のように2回のみの挑発的なノックではなく、きちんと4回叩く。

「ルシファー、いる?」

カロデアが扉越しに声をかけるとしばらくの間の後に扉が開いてルシファーが姿を見せた。
今日は3対の翼を携えた姿だ。
その翼の数の使い分けは気分か何かなのだろうか。
もしファッションであるならばカスタマイズできる場所が多くていいな、とカロデアは呑気な感想を持った。
ニコニコしているカロデアを見るやルシファーは間髪入れずに扉を閉めようとする。
それをカロデアは慌てて阻止し、扉に両手をかけて引っ張った。

「ちょっと!何も言ってないのに閉めないで!」

「…何の用だ」

ご機嫌なカロデアとは対照的にルシファーの声色は暗い。
機嫌の悪い日だったというよりはこれから面倒ごとに巻き込まれそうだということを察知したからのようだ。

「ルシファー、この屋敷のこと知らないでしょ?だから案内したげる!」

「必要な場所さえ知っていればそれでいい」

「もー!つれないなあ!ハロデアに頼まれてるの!!追い出されても知らないよ?」

「脅しか?」

「脅し!!ほら行こ!」

カロデアはいつまでも部屋から出ようとしないルシファーの腕を引っ張り廊下に引きずり出した。
そのまま強引に廊下を歩き始める。
上体を屈める姿勢を取らされているルシファーは、掴まれたままの腕を振りほどいた。
逃げ出すと思われたのか、カロデアが勢いよく振り返る。
その表情は怒りや驚きよりは悲しみや寂しさに近かった。

「お前の身長に合わせたら歩きにくくて仕方ない。服もシワになる。」

行けよ、とルシファーが顎で促す。
つまりそれは案内に応じるということだ。
カロデアの顔がまたパッと明るくなる。

「分かった!ちゃんとついてきてね!」

感情が分かりやすい奴だな、とルシファーは思う。
心を隠さなければならないような過酷な環境で生きたことが無いのだろう。
ずっとこのお気楽な屋敷にいたのであれば生きるか死ぬかの世界なんて知っているはずがない。
厳しい世界を知っていると腹の底を見せるような言動は自然としなくなっていくものだ。

そう、ルシファーがカロデアを甘く見ていたのはこの時までだった。
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