Halloween in Moon World

□【1st&half】クジラと海鮮丼
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ハロウィン当日。
屋敷の主、ハロデアはカロデアを連れて屋敷の裏に来ていた。
魔界の空は時間の流れを掴みにくいが、今は人間界が大体15時を回った頃にあたる。

「よし、ゲートの固定はこんなもんかしらね」

ハロデアの目の前には魔界と人間界を繋ぐ門、通称「ゲート」が姿を現していた。
本来このゲートは場所によって固定されていて、使用者の意思によって出現させられるものではない。
時空の歪みを最小限にするため基本的には既存のゲートを使う。
その方が通過者の身体への負担も少ない。
しかし今ハロデアの目の前にあるゲートはハロデア本人が出現させたものだ。
何故既存のゲートを使わなかったかというと…ただの怠慢である。
姫君の身分としては目的地に行くというより目的地を引き寄せるという感覚の方が優位に立つようだ。
それを可能にできるのは地位に見合った大きな力を持っているが故。

ハロデアがゲートを固定する間、うさ耳パーカーの少女カロデアは屋敷の外壁にもたれてもじもじしていた。
先日日本行きが決まった時のような明るさはなく、乗り気でない雰囲気さえある。

「カロデア?どうしたの?行きたくない?」

ハロデアが声をかけるとカロデアはゆっくりと歩み寄ってきた。
ハロデアに触れようと両手を前に伸ばす。
今日のカロデアの目を覆い隠しているのは黒い包帯だ。
先日のヴァンパイアの眼帯二つはハロデアが部屋に置いてこさせた。
この見た目がカロデアの普段の姿である。
すがるように伸ばされる手をハロデアは優しく掴んだ。

「いきたい…けど、ゲートはこわいの」

「ほんの数歩じゃない」

「でもー…ぶにぶにするのー」

「そうかしら?私がそばにいるから大丈夫よ。行きましょう」

「うん…」

ハロデアはカロデアの手を取ってゲートに入る。
カロデアが言う「ぶにぶに」の意味も分からないではない。
風船やビニール人形のような空気の入ったものを踏んでいる感覚に近いものがあるのだ。
ただそれはハロデアにとっては全くに気ならないものであった。
大人であれば数歩、どころか大股で一歩踏み出せば終わる程度の距離。
ハロデアは人間界側の様子を確認する。
人目の少ない公園の茂みを到達点にしているため誰かに遭遇する確率は極めて低い。
それでもカロデアがいる状態では派手なごまかしが出来ないのもあって少し慎重になっていた。
しかしそれが事故のもとになる。

「…やっぱりやだよー!」

「え!?」

カロデアが急にごね始める。
繋いでいた手を振りほどき、元来た方向へ帰ろうとしていた。

「待って…!」

ほとんど人間界に出ていたハロデアは突然のことに軽くパニックを起こす。
ハロデアによって出現させられたゲートの安定度は本人の力に依存する。
集中力を乱したことによってゲートは歪み、カロデアが出てくる前に閉じてしまった。

「そんな!」

ガクリと膝をつくハロデア。
血の気が引いた顔は真っ青になっている。
想定外とはいえ自分でゲートを繋げたことに事故を起こして初めて後悔していた。
既存のゲートであればこの程度のことで急に閉じたりはしない。
今すぐにゲートを繋げなおしても無意味だということをハロデアは理解していた。
ゲートそのものに空間を維持する力は無いからだ。
ハロデアは同じパターンの事故を起こしたことはなく、この後どうすべきかイチから考えなければならなかった。
しばらく考えたのち、ゲートの性質上、魔界側に押し戻されたか人間界のどこかにはじき出されたかのどちらかである可能性が高いと推測するに至る。

「人間界で魔力の波長を探すのはちょっと難しいけれど…あの子を早く見つけてあげないと」

魔界で初めて出会った時のカロデアの姿が脳裏によぎる。
たった一人で森の中にうずくまり、触れられることにすら恐怖を感じていた。
また一人にさせてしまったらその時の辛い記憶を思い出してしまうかもしれない。

「待ってて、カロデア…!」
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