Halloween in Moon World

□【3rd】崩壊するカボチャ屋敷
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「時は満ちた…今こそ『キャンディー』を回収する最大のチャンスである」

老婆のしゃがれた声が暗い大広間に響き渡る。
黒いフードを目深に被った従者たちは皆跪いて主の言葉に耳を傾けている。
その従者の列の最前列にいるうちの一人が、膝に乗せていた右手を地面についた。
これは従者を取りまとめる幹部クラスの者だけが許される、発言の許可を求めるポーズ。

「なんだ、メフィストフェレスよ」

「ドゥルジ様、キャンディーについている姫はどうなさるおつもりですか。彼女は権力を持っている」

メフィストフェレス。
男女ともにどちらともつかない容姿を持った悪魔。
錬金術師であった人間によって人間界へと呼び出されたが、現在はこの老婆――ドゥルジの下にいる。

「ハロウィンボケしているかぼちゃ姫は放っておけ。わざわざ襲う必要もない。もし邪魔立てするというのなら――殺せ」

恐ろしく冷徹な言葉が従者の体幹を貫くように降りかかる。
逆らおうものならこの場で殺すというメッセージさえ含んでいそうな声のトーン。

「…よろしいのですか」

メフィストフェレスが言っているのは、高位の姫を殺してもいいのかということだ。
主の言葉へ食い下がる従者に、ドゥルジは苛立ちをのぞかせる。

「相手の権力が怖くて私の命令が聞けんと言うのか?」

その言葉に、メフィストフェレスはおぞましい笑みを浮かべて答えた。

「いいえ。そのような光栄な命を授けていただき、血肉湧き踊る勢いです」

高貴なるものを殺していいという、解放感すらある命。
おそらく大半の従者はうずき始めているはずだ。
悪と罵られ迫害されてきたものが復讐できる時が与えられたのだ。
ドゥルジは機嫌を直し、今度は自身がメフィストフェレスに問いをかけた。

「よかろう。味方の戦力は整っているのだろうな」

「ぬかりなく。特に堕天使のうちの三人、ルシファー、ベリアル、イブリースが今回の策に加担しております。」

ルシファーは自身の才能に溺れ傲慢になり、神を倒そうと反逆するも敗北。
その挙げ句天界から追放された優秀な元天使だ。
彼の側につき神に逆らったものは多かったという。
よほど彼に才があり、支持されていたのであろう。
ルシファーの名を聞いてドゥルジはにんまりと笑う。

「面白い。まさかルシファーがこちらにつくとは。ベリアルとイブリースはルシファーについてきたのか?」

「ドゥルジ様、私を何の悪魔と心得ておいでで?」

メフィストフェレス――言語によって異なる意味を持つ名前だ。
「光を愛せざる者」
「悪臭を愛する者」
そして「虚言の破壊者」。

メフィストフェレスの言葉に満足したドゥルジは「行け」と短く命を出した。
従者が一斉に屋敷を飛び去っていく。

『キャンディー』を回収するために。
――高位なる姫を殺しに行くために。
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