Halloween in Moon World
□【1st】もてなしがないなら幻覚を
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子供がバタバタと走ってくる。
そんな騒がしさならまだマシだった。
今聞こえてくる騒音は、明らかに何度も壁に激突しながら、さらに奇声レベルの大声を発しながらこちらに向かってくる。
「〜〜〜!〜〜〜!!」
「…何か言っているようですが、よく聞こえませんね。」
ただの大声ならまだ聞き取れたかもしれない。
それ以上に大きな騒音にかき消されていなければ。
徐々に近づいてくる声と衝突音。
そして、バンッ!とドアが開かれた。
どいつもこいつも、ノックを知らないやつばかりだ。
だが、この歩く騒音にはキョンシー以上に何回言っても無駄だろう。
「ハロウィン子!ハロウィン子どこー!?」
ハロデアの部屋に転がり込んできたのは、うさみみパーカーを羽織った幼い少女。
その両目には種類の違う眼帯がそれぞれかけられている。
全く前が見えていないその少女は、あわあわと両手を前に出しておぼつかない足取りで周囲を確認しようとしている。
「ハロウィン子ー?ハロヴッ…!」
「おだまり。カロデア。」
相変わらず騒ぐカロデアに、ハロデアが拳の制裁を加えてやった。
「あいたたたー。酷いよハロウィン子ー。あんまりだよハロウィン子ー。」
うずくまり、頭を押さえるカロデア。
殴られても尚うるさい。
「だ・れ・が!ハロウィン子ですって?」
自分の席に戻り、イライラと足を組むハロデア。
こいつは毎年、というか毎日うるさい。
屋敷のものを壊さない日がない。
「えー、だってー、『ハロ』デア・『ウィン』ゴットでしょー?」
ペタンと座ったカロデアは、ハロデアの方を見上げた。
といっても見えてはいない。
その方向にいると声の聞こえた方向から察知しただけだ。
「変な略し方をするな!ハロデアお姉様とぐらい呼べないのかしら。」
「かわいいじゃないですか。ハロウィン子様♪」
「キョンシー…かぼちゃ畑の肥やしにされたくなかったら、二度とその呼び方はしないことね。」
ハロデアの一睨みで、キョンシーはすくみ上った。
「おおコワ…」
そもそもこのカロデアは、ハロデアが魔界の隅で見つけた子供だった。
名もなく、両親も知らず、何も見えないように視界を覆われていた状態で、捨てられたように座っていたカロデアをハロデアがここに連れてきたのだ。
自分と似たような名を与え、自由に生活させてやることで、今ではウザいほど元気になった。
というかウザい要素しかないくらいだ。
それでも世界を見ようとは決してしないカロデア。
底なしのアホとはひとくくりでは言えないだろう。
ハロデアに拾われるまでの何かしらの過去が、彼女が世界を見ることを躊躇わせているのだ。
「カロデア、ヴァンパイアはどうしたの?その眼帯、ヴァンパイアからもらったんでしょう?」
「ここにいますよ、ハロデア様。」
そう言って、さっきカロデアが開け放ったドアから優雅に入ってきたのは、人間が使う、医療用の普通の眼帯を右目にしている長身の男性。
「ヴァンパイア…!」
キョンシーが両手を組んでうっとりしている。
東洋のヴァンパイアとしては、好みという事なのだろうか。
確かにスタイルも顔もいいだろう。
その容姿のおかげで毎日の血液には困らないと聞いている。
ただ、ヴァンパイアは決してキョンシーには振り返らない。
何故なら――
「カロデアちゃーん。眼帯気に入ってくれたかな?お兄さんのお気に入りだけど、カロデアちゃんにあげちゃう!」
「まじかー!ヴァンパイア最高!イエー!」
「カロデアちゃんに最高って言ってもらえた…!ブハッ」
――極度のロリコンだからである。
キョンシーは成人女性。
すでにヴァンパイアの好みではなかった。
「ヴァンパイア、キモい。」
大切な血液である鼻血をつらつらと垂らしながら、カロデアをなでなでしているヴァンパイアに、ハロデアは冷ややかに言い放った。
確かに気味の悪い光景ではある。
人間界なら即通報だ。
ヴァンパイアの暴走が止まるまで、しばらく時間がかかる事態となり、カロデアの暴走との二重被害となった。