黒猫と三毛猫(小説)

□◇1章 体温
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「んぅ…」


頬にフワリとくすぐったい物が当たって、落ちていた意識がゆっくり浮上する。

眠くて開きにくい目を開けると、もうオレンジ色に染まった空が木々の間から見えた。




…あれ?ここどこだ…。

あ、飼育小屋を掃除した後猫を見つけて、一緒に寝ちゃったのか…

今何時だろう…。

こんだけ日が落ちてるから、5時過ぎとかかな。

早く部屋戻って、夕飯作らないと。



そんな事を考えながら覚醒しない頭でぼーっとしていると、俺はふと違和感に気が付いた。



背中に感じる温かいもの。

…と、俺のお腹に回されている腕。




「…腕?」

…って、え!?

なんで腕!?

普通に「腕か…」なんて思ったけど、よくよく考えなくてもこの状況はおかしい。


…なぜか俺の体は、誰かによってがっちりホールドされている。

おそらく、さっき俺の頬に当たったものはこの腕だろう。



誰かと一緒に昼間をした記憶はない俺は、誰の腕か確認すべく恐る恐る後ろを見て絶句した。









「…っ」



なんで…


なんで…










俺は天下の不良様に抱き締められて寝てるんだーっ!









叫びたかったけど、起きたら怖いから心の中で叫びました。

俺チキンだもん。


逃げるとかカッコ悪いけどいいんだ、だって俺はチ(以下略)

一気に目が覚めて、ダッシュで腕を解いて逃げたかったけどソコは冷静な俺。

腕バーンって退かして起きたらヤバイ。




腕に刺激を与えないように、慎重にゆっくり退かして…さぁ逃げるぞ!!




グイッ




…と腕から飛び出しかけたところを、すごい力で引き戻された。

しかも運悪く片腕を思い切り引っ張られたもんだから、体が回転して正面から抱きしめられた。


まさか起きた…!?

心臓バックバクの状態で不良様の顔を見ると、切れ長であるだろう目はしっかり閉じられていた。




「よかった…寝てる…」



ホッとしたのも束の間、さっきより強く抱き締められて逃げるという選択肢を失った俺は、仕方なく不良様と睨めっこ?することにした。
(というか、それ以外に何も出来ない)



「…綺麗な顔…。」




今は閉じられている目はすっと切れ長で、鼻筋も通ってて芸術品のようなこの不良の名前は、古賀良平。

なにやら物騒な噂が後をたたない怖い人。

俺は一応同じクラスだけど、クラスで会ったことはほとんどないな。

喋るなんてもってのほかだけど、噂はよく聞く。


学園で生徒会と同じくらいの人気を誇る超美形なくせに親衛隊がなくて、セフレが大量にいるとかいないとか。

外で不良のチーム潰して暴れまくってるとか。



…本当か嘘かは知らないけど。



「初めてこんな近くで見たな…」


こんな怖い噂がある古賀と近づく機会なんて無いと思ってたけど、まさかこんな形で接触することになるとは驚きだ。

むしろ近づきすぎ。顔近いって…。



まぁ、俺は綺麗な顔をじっくり近くで見れて、怖い気持ちよりむしろ得した気分になった事もたしかだけど。


「寝てるとちょっと…」


可愛いかも…なんて。


寝てる古賀は本当になんとなく可愛く見えて、怖い気持ちが薄れて安心したらまた眠気がやってきた。


外はだいぶ冷えてきてたけど、古賀良平の見た目に反する暖かい体温が気持ち良くて、俺はそのまま意識を手放した。
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