novel

□結晶伝説 転3
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PM17:45 医務室

「…上の連中に連れてかれた?レイラちゃんが?」

ベッドに寝そべるエッドが、
「レイラ軟禁」の単語を言い渡されてガバッと起き上がった。

「ええ」

アンディが歯を食いしばる。

喪服のような黒い制服に、
爪がきゅっと食い込んだ。

「…何が軟禁よ…!!
せっかくまた1人、呪いから解放されて自由になれたのに、
今度もまた利用するだけ利用しようって言うの!?
あんの馬鹿兄…!!」


彼女の震えた怒りの声が、
フロア全体に響いて留まる。


場が静まり、空気が凍った。


誰も、何も言い出せなくなる。


突然の軟禁命令、そして尋問………


まったく意味がわからなかった。

エディシアの異形の突起物のような顔が目に浮かぶ。


思い出すだけでも、
背筋を寒気が襲った。



とにかく、これではっきりした。

上層部は敵だ。


自分たちをただの道具としか見ていない、底辺の人間の集まり……。


だが、自分たちが所属している教会のお偉いさんでもある。


逆らうことは出来ない。



そのため、レイラを奪還することは出来ない。


ただ、彼女が戻ってくるのを待つしかないのか…………。


だがエディシアが、こう言っていた。


『ちょっと尋問して僕たちに付き合ってもらうだけだから』


尋問…は恐らく、子供姿からいきなり急成長したからだろう。


問題はその後。


"僕たちに付き合ってもらうだけだから"


何に付き合わせるんだ?


…まさか、エリーゼの時みたく、エーテルを吸い取るだけ吸い取って、廃人にするのか………?


最悪の連想が、血液に宿り、やがて循環してすぐ脳に回りきった。


アンディが頭を抱える。


「頼むから何もしないで…エディシア……」

彼女が放った言葉を、
誰もが祈っていた。


















同時刻 教会上層部

アルカンタ教会は12階の構造になっており、うち1階〜7階がアトラス達が使ってる支部、8階以上は上層部になっている。

上層部に所属する人間は当然ながら少なく、10人にも満たないんじゃないかという噂すらある。



レイラは、傷だらけでボロボロになった服からアンディと同じ黒いタイトのミニワンピに着替え、
静まり返った廊下を歩いていた。


周りは白で統一され、
照明も暗く場の空気の悪さを物語っている。


自分の前を歩くエディシア・ザースの背中からは、
威厳と恐れが感じられた。


エディシアと自分の足音が重なる。


だが、それは二重奏というには到底虚しく、逆に2人の仲の悪さからか不協和音を奏でていた。




エディシアが、ある大きな扉の前でノックをして、振り返った。


「ここだよ」

彼の顔が醜く歪む。


いや、彼は笑ってるのだろうが、そこからはアンディ、セイムのような優しさも温かさも何も感じなかった。


ただただ、氷のように冷たく微笑む様は、怖さしか伝わらない。

レイラは口内に溜めていた唾を一気に飲み干すと、ドアノブを勢いよく捻って扉を開けた。



そして、そこにいる人物の影に、彼女は息も呑み込んだ。



人影がゆっくりと振り返る。


(あの顔は……まさか…………)


胸の鼓動の速度が増し、
血液がすごい勢いで全身を巡る。


「あら………来たのね…………」


「な……んで…………」


喉からようやく絞り出された言葉はこれだけだった。


それ以上は、心が話すことを拒絶していた。



ゆっくりと、目の前にいる人物が口を開く。


「久しぶりね………レイラ…………」


そこには、以前自分が見ていた人物とは明らかに違う人がいた。


彼女の名は…………


「どうしてそんな反応をするの?自分の……姉、なのに」


ファルカ・クーネリア……年が離れた、レイラの姉だった。
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