novel

□結晶伝説 転1
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「え、外出許可?」

セイムがばっと体ごと振り返ってエリーゼを見る。

「あの、はい、無…無なる魔女に会いたいんです!!」

エリーゼはたどたどしく、しかしはっきりとセイムに言った。

「ふうーむ…」

セイムは腕を組んで顎に手をおき、何か考える素振りをする。

「だったら、僕も護衛として同行させてもらっていいかな?」

「ふえっ?」

セイムの突然の提案に変な声をあげるエリーゼ。

「この間の恩返しもあるし、今回は、教会の飛行船を用意するから、」

確かに、彼が同行してくれるなら、これほど頼もしいことはない。

だが、いいのだろうか…
という、不安もあった。


間違いなくスカイナやアンディは怒るだろうし、それに……


…正直、7人全員が揃って無かったら、何か意味がない気がした。

エリーゼは眉を下げた不安そうな表情で、視線を床に落とした。

(…大丈夫かな…。エッドさんは行く気満々だけど、あのひとを…みんなに会わせたいな…)

「どうしたの?」

不意に、セイムが視界に入りこんだ。

エリーゼはまた、

「ひょえっ!?」

と奇っ怪な声をあげる。

そして慌てて、

「あ、すみません!!すみません!!!」

と謝り倒した。

何度も頭を下げ、混乱状態の脳をなんとか正常に戻して。

そんな彼女の頭を、セイムは優しく撫でた。

大人の温かい手が、彼女を包む。

「大丈夫だよ。支度が済んだら、いこうか」

「…はいっ!!」

エリーゼは、それ以上何も言わずに、事務室から出て行った。


(気にしすぎかな…なんか、まとわりつくような、嫌な予感がするんだよね…)

エリーゼは胸にある不安を握り潰すように手を強く握ると、走ってその場を後にした。

















エッドは自室にいた。

半裸で、鏡に写った自分の姿を見つめる。

それは彼が自身の美しさを確認するためではなく、背中の大火傷を確認するためであった。

彼は、心に決めていた。


アトラスの意思を自らも持ち、呪いを解くんだ、と。


正直、可愛い魔女に会いたいという気持ちもあったが、それよりも呪いのほうが気になっていた。

自らの家族を引き裂き、
背中に炎の烙印を押された呪いを、断ち切りたい。

エッドは火傷により変貌した赤い皮膚を見る。

その上から、双頭の蛇がお互いを喰いつくすようにタトゥーを彫ったのは、火傷を隠すため、というのもあったが、この輪廻を、悲劇断ち切るため、という理由もあった。

背中に彫る時、医師か誰かとの会話を思い出す。

『ウロボロス?』

『ああ、あの、自らが自らの体を喰らうっていう蛇。それを刻んでほしい』

『…兄さん。その蛇の意味を知ってるのかね?』

『循環、永劫回帰、じゃねぇの?』

『勿論そういう意味も含まれておるが、語源は、始まりも終わりもない、という意味じゃ。
兄さんに何があったかは知らんが、物事には始まりもあれば終わりもある。
それを刻むことで、悪循環をいつまでも継続させても知らんぞ…』





エッドは、近くにあったガラスのコップを持ち、しばらく考えこんだ。


(…だったら、オレが片方の蛇をぶっ殺して終わらせてやるよ。この忌々しい呪いが、循環なんかしてたまるか!!)

無意識のうちに握力をいれすぎていたのか、コップがパーン、という音を立てて割れる。

ガラスの破片たちが皮膚に突き刺さり、血がたらりと流れた。

欠片と共に滴り落ちる血液。

ガラスが反射で輝き、鮮血を浴びて、一種のイミテーションに変化した。



彼は改めて決意した。


…終わらせてやる。

必ず、この呪いの輪廻を終わらせる、と…

エッドは、再び拳を強く握り締めた。
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