novel
□結晶伝説 起3
2ページ/10ページ
「どうしたの?さっきから悲鳴が……」
スカイナが驚いた様子で
食堂に入ってくる。
「…なんでもない」
アトラスは厨房に入って、
エリーゼとアンディが盛大に汚したフライパンを洗っていた。
結局、この2人に任せたら
食べられるものも食べられなくなってしまう、と言うことで、アトラスが2人をなだめて器用に野菜炒めを作り、それを朝食にすることにした。
色々と働いてきた経験がここでも活きてきたようで、アトラスが作った野菜炒めは絶賛だった。
それを機に食堂には人が集まり出して、騎士やシスター、その他もろもろの人物がぞろぞろと集まりだした。
もちろん、中にはスカイナのように女性の悲鳴に駆けつけた者たちもいるのだろうが。
悪臭は換気扇とスプレー型の脱臭剤でなんとか収めたものの、
その代わりトイレの中のような異様に華やかな匂いが漂っていた。
エリーゼはずっと、心配そうに厨房のアトラスを見ている。
「アトラスさん、手伝いましょうか?」
「いい!!1人で大丈夫だから」
「じゃあそれって、私も手伝うなってこと?」
アンディがその中に割って入る。
「そりゃそうですよ、さっきフライパンから火を出したんですから…」
それを言われるともう何も言い返せないのだろう、
アンディはそのままむすっとした顔で押し黙った。
スカイナが苦笑いを浮かべながら厨房に近づいてくる。
「アンディさん…またやらかしたんですね」
「ほっといてよ!!」
「また?」
食器を洗いながらアトラスが顔をしかめる。
「アンディさんの料理の下手さは筋金入りだからね…。前に兄のセイムさんが『簡単だから、鍋を作ってみたら?』って言ってくれた時も、見事に失敗したよ。
何せ野菜は半生だし肉や魚はアクをとらなかったせいで臭かったからね」
「スカイナ…それ以上言ったら、殺すわよ」
アンディの顔は湯だったように真っ赤だ。
スカイナは 「すみません…」 と謝ると、思い出したようにアンディに話題をふった。
「そういえばアンディさん、ルダール・リンケッドの様子はどうですか?」
「呪いのこと?それなら気にしてないみたいよ。むしろ同じように苦しんでる仲間がいることに、ショックを受けてたみたい」
アンディが淡々と話す。
すると彼女は、急に話題を切り換えて話し出した。
「そうだ。アトラス、エリーゼ、スカイナ。残りの呪いを持った三人を連れて、事務室へ来なさい」
3人は戸惑いを隠せないまま彼女を見る。
「厄介な仕事よ」
朝食後、言われた通りに昨日も来た事務室へと入る。
中ではアンディがいつもの修道服に着替えていた。
彼女は立ったまま、さっさと要件を話した。
「じゃ、簡単に説明するわね。
今回の仕事、場所はここから北のザンガナ大陸にある繁華街、ドニジア。
原因不明の流行病の正体を調べてきてほしいの」
「流行病?」
ルダールが聞き返す。
「そう。名もないその病は、全身に紫色の斑点を出し、苦しみの末に死なせる、恐ろしい病気。
それも、たった数時間前まで元気だった者でさえ罹ってしまう…ね」
「それ、殺人の可能性はないのか?」
エッドが腕を組みながら質問した。
「最初は誰もがそう思い、わざわざ遠い場所から腕のある監察医を呼んで、司法解剖をしてまで謎を解明しようとした。
けど無駄だった。外傷は一切無し、胃の中身も正常だったそうよ」
アンディは身の毛もよだつことをあっさりと説明する。
レイラが、肩を震わせた。
「…ねぇそれ、本当に流行病なの?」
彼女の中では、恐ろしい仮説が立てられているのだろうか、レイラは更に続ける。
「もし…もしだけど、誰かが、その街を実験台に虎視眈々と作戦を練り、前代未聞のテロ計画をしようとしてるのだとしたら?」
アンディが目をつむって真剣にその話を聞いた後、
ガタン、と椅子に腰掛けた。
「面白い発想ね。その可能性も無くはないけど、それだったらこの短期間で膨大な死者が出てるんじゃないかしら?
流行病、とは言ったけど、
被害者の数は現在、街全体の人口の30分の1にも満たないわよ。数にしておよそ20人くらい」
レイラの考えも、あっさり却下された。
すると、ずっと黙っていたスカイナが、神妙な面持ちで口を開いた。
「この依頼…アンディさんは、来てくれないんですか?」
「ん〜、私は戦闘専門だからね。でも、ドニジア付近で暴力団壊滅の依頼を受けてるから、何かあったら派遣所に連絡ちょうだい。
もし乱闘になったら必ず駆けつけるわ」
アンディはそう言ってウインクを1つする。
その言葉を聞いて、スカイナは安堵の表情を見せ、頭を深々と下げた。
「ありがとうございます」
ルダールが拳を締め直す。
「んじゃあ、行くか!!」
その言葉を皮きりに、次々に部屋を出て行く6人。
この時、アンディには嫌な予感がしていた。
そして、その予感は的中することとなる―――――…