novel
□結晶伝説 結
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AM6:00
アトラスは、夢から醒めると同時に、ベッドからがばっと起き上がった。
夢だというのに何故か息が切れ、動悸も激しい。
目尻を触ると、何かが濡れて乾いた跡。
やはり涙が零れていた。
悲しい夢だった。
これが、前世の記憶。
すべての、真実だ。
手は汗でびっしょりで、
瞳からはまだ涙が溢れ出た。
一晩で見た夢とは言えないほど、内容の濃い物語だった。
まるで1ヶ月も寝ていたような、そんな錯覚に陥った。
アキレウス。
それが自分の前世。
この記憶を、ユスティティアの生まれ変わりであるエリーゼ以外は全員、保持している。
悲しい記憶。
本当なら思い出したくない記憶。
だが、時間をかけて魔女は蘇り、我々も復活した。
今度こそ、倒さなくてはならない。
悪なる魔女も、封印が弱まっている魔王、 "タブー"も。
今度こそ、みんなで幸せをつかむために。
夢でみた、現実にあったような思いはもうしたくない。
『ごめんねアキレウス………私、満開の花に、なれな……かった………』
『何故だっ!!何故…………何故死ぬことが出来ないんだぁあぁあああぁあ!!!』
アキレウスとユスティティア、
2人の最期の言葉が脳裏に蘇る。
そして、無なる魔女バニラメルダ。
彼女は自分の、育ての親だった。
だから、初めて会った時………
『一目見た時からわかっていたわ……あなた達は莫大な力を持って生まれた代わりに、とっても苦しんでる、って』
そう言ったのだ。
自分と再会した時、
彼女はどんな気持ちだったんだろう。
彼女は気づいていたはずだ。
自分が、自らが育てたアキレウスの生まれ変わりだって。
「もう訳わかんないよ………」
鳶色の頭を掴んでくしゃくしゃと乱す。
ちょうど、その時だった。
バァン、と勢いよくドアが開く。
ドアの向こうにいたのは、
肩で息を切らすエッドだった。
こんな朝早くに、彼がやって来るなんて………
明らかにただ事ではない。
「ど、どうしたの?」
「大変だ…………」
彼が息だけの声で、
ようやく絞り出した言葉はこれだった。
そして、続けて言った言葉に、アトラスは驚嘆した。
「エリーゼが……エリーゼがいないんだ!!!」
「えっ!!?」
確かエリーゼは、昨日エーテルリバースで心を失った。
それなのに、自らの力でどこかに行ったなんて考えられない。
そして、呪いが解けていないのは、自分とエリーゼだけ………
「ま、まさか………」
「同じことを考えていたみたいだな、アトラス。
これはオレの想像だが…あいつ、多分悪なる魔女に攫われた」
「!!!」
「だってそうだろ、もうタブーの復活も間近なんだ!!
あとはアトラスとエリーゼの水晶が破壊されれば、奴は復活する!!
悪なる魔女の最大の目的は、"自動人形タブーの復活"。そう考えりゃ簡単に話は通る!!
それに昨日の夜、アンディが言ってたんだ、『エリーゼと上層部の連中がいない』って」
昨日、セイムと手合わせしていた時に、そんなことがあったのか…………
そこに、セイムが現れる。
「話は全部聞いたよ」
「セイムさん……!!」
アトラスは彼を見ると同時に、涙をぽろぽろと流した。
セイムはそれを見て、こくりと頷く。
「全部、思い出したみたいだね」
「すみません、僕…まだ、頭の中の…整理が、ついてなくて………」
動揺するアトラスの頭に、
セイムはぽん、と優しく手を置く。
「エッド君の推理通りだ。
上層部の連中が、エリーゼちゃんを連れて、タブーが眠る地、クレイアに行った」
そう言うセイムも、悔しそうだ。
まさか、彼自身もアトラスを鍛えるためにしたことが、こんな結果になるなんて、思ってなかったからだろう。
エッドがセイムに詰め寄る。
「場所がわかったんなら行こうぜ」
「ところがそうもいかないんだ」
「何でだよ!!!」
「上層部の人間が、騎士や修道女達に"僕とアンディ、それから君たちを外に出すな"と命令したらしいんだ。正門にも裏門にも騎士達がいる。
完全に先手を打たれた」
「そんな…………」
「けど、打つ手がない訳じゃない」
セイムのその一言に、
アトラスたちの瞳に希望が宿る。
「他の団員には内緒なんだが、この教会には地下道がある。そこから出よう。
すぐ準備してね」
「あぁ」
「はい!!」
2人は決意を胸に秘めて返事をした。