novel

□結晶伝説 結
1ページ/22ページ

AM6:00

アトラスは、夢から醒めると同時に、ベッドからがばっと起き上がった。

夢だというのに何故か息が切れ、動悸も激しい。

目尻を触ると、何かが濡れて乾いた跡。

やはり涙が零れていた。



悲しい夢だった。

これが、前世の記憶。


すべての、真実だ。

手は汗でびっしょりで、
瞳からはまだ涙が溢れ出た。


一晩で見た夢とは言えないほど、内容の濃い物語だった。

まるで1ヶ月も寝ていたような、そんな錯覚に陥った。


アキレウス。

それが自分の前世。


この記憶を、ユスティティアの生まれ変わりであるエリーゼ以外は全員、保持している。

悲しい記憶。


本当なら思い出したくない記憶。


だが、時間をかけて魔女は蘇り、我々も復活した。

今度こそ、倒さなくてはならない。



悪なる魔女も、封印が弱まっている魔王、 "タブー"も。


今度こそ、みんなで幸せをつかむために。


夢でみた、現実にあったような思いはもうしたくない。


『ごめんねアキレウス………私、満開の花に、なれな……かった………』

『何故だっ!!何故…………何故死ぬことが出来ないんだぁあぁあああぁあ!!!』


アキレウスとユスティティア、
2人の最期の言葉が脳裏に蘇る。


そして、無なる魔女バニラメルダ。


彼女は自分の、育ての親だった。


だから、初めて会った時………


『一目見た時からわかっていたわ……あなた達は莫大な力を持って生まれた代わりに、とっても苦しんでる、って』

そう言ったのだ。


自分と再会した時、
彼女はどんな気持ちだったんだろう。

彼女は気づいていたはずだ。


自分が、自らが育てたアキレウスの生まれ変わりだって。


「もう訳わかんないよ………」

鳶色の頭を掴んでくしゃくしゃと乱す。

ちょうど、その時だった。


バァン、と勢いよくドアが開く。


ドアの向こうにいたのは、
肩で息を切らすエッドだった。


こんな朝早くに、彼がやって来るなんて………

明らかにただ事ではない。


「ど、どうしたの?」

「大変だ…………」

彼が息だけの声で、
ようやく絞り出した言葉はこれだった。


そして、続けて言った言葉に、アトラスは驚嘆した。


「エリーゼが……エリーゼがいないんだ!!!」

「えっ!!?」


確かエリーゼは、昨日エーテルリバースで心を失った。


それなのに、自らの力でどこかに行ったなんて考えられない。

そして、呪いが解けていないのは、自分とエリーゼだけ………

「ま、まさか………」

「同じことを考えていたみたいだな、アトラス。
これはオレの想像だが…あいつ、多分悪なる魔女に攫われた」

「!!!」

「だってそうだろ、もうタブーの復活も間近なんだ!!
あとはアトラスとエリーゼの水晶が破壊されれば、奴は復活する!!
悪なる魔女の最大の目的は、"自動人形タブーの復活"。そう考えりゃ簡単に話は通る!!
それに昨日の夜、アンディが言ってたんだ、『エリーゼと上層部の連中がいない』って」


昨日、セイムと手合わせしていた時に、そんなことがあったのか…………

そこに、セイムが現れる。


「話は全部聞いたよ」

「セイムさん……!!」

アトラスは彼を見ると同時に、涙をぽろぽろと流した。

セイムはそれを見て、こくりと頷く。


「全部、思い出したみたいだね」

「すみません、僕…まだ、頭の中の…整理が、ついてなくて………」

動揺するアトラスの頭に、
セイムはぽん、と優しく手を置く。



「エッド君の推理通りだ。
上層部の連中が、エリーゼちゃんを連れて、タブーが眠る地、クレイアに行った」

そう言うセイムも、悔しそうだ。

まさか、彼自身もアトラスを鍛えるためにしたことが、こんな結果になるなんて、思ってなかったからだろう。


エッドがセイムに詰め寄る。

「場所がわかったんなら行こうぜ」

「ところがそうもいかないんだ」

「何でだよ!!!」

「上層部の人間が、騎士や修道女達に"僕とアンディ、それから君たちを外に出すな"と命令したらしいんだ。正門にも裏門にも騎士達がいる。
完全に先手を打たれた」

「そんな…………」

「けど、打つ手がない訳じゃない」

セイムのその一言に、
アトラスたちの瞳に希望が宿る。

「他の団員には内緒なんだが、この教会には地下道がある。そこから出よう。
すぐ準備してね」

「あぁ」

「はい!!」

2人は決意を胸に秘めて返事をした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ