novel

□結晶伝説 転5
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暦は4000年余り。

私は世界を調和に正す存在として、何千年もの間、滞在し続けていた。


私はただ、いるだけで世界平和を、何千年も守り続けていた。



特別な力を持ったという感覚はない。


私の能力は、周りにいる人間を穏やかにさせるものらしい。


そんな、もう年を数えるのも面倒くさくなった頃だった。


私と同じく何千年も存命していた悪なる魔女が、世界平和に飽きたのか、ついに膨大な魔力を費やして戦争を仕掛けた。


丁度その頃、いるだけですべてを無に返す無なる魔女が、教会から選抜した7人の子供たちを連れて、私の前に現れた。


うち1人は、どうやら彼女の子供らしい。



そして、悪なる魔女に対抗するため、私と無なる魔女で力を彼らに注ぎ込んだ。

そしてこの戦いは、後に世界三大魔女戦争と名付けられることになる―――――…


















AM6:32 アルカンタ教会

スカイナ・フレデリカが見ていた夢は、そんな内容だった。

世界三大魔女の、恐らくは善なる魔女の夢。



そういえば悪なる魔女はレイラの姉、無なる魔女はアルテミスレイクに滞在していると知っていたが、善なる魔女は誰なのか未だ不明のままだった。



恐らくこの世界にいることは、
教会にいることは確かだが、
それが誰なのか、まるで掴めていない。


段差ついた金髪を掻き乱す。


朝陽が空色の瞳に映った。



(700年前の…世界三大魔女戦争、か………)


そういえばアトラスが以前、必死に調べていたな……と感傷にふける。

(自分も調べてみるか)

眠い頭をこすりながら、
スカイナは制服に着替えた。

こうして、スカイナの1日が幕を開けた。





















悪なる魔女の機嫌は最悪だった。

賢者は確実に力をつけている。


今回は、油断した私の愚かさが招いた結果だろうが、それでも怒りを隠し切れなかった。


おのれ……………おのれおのれおのれおのれおのれ…………


長い髪を、ぐちゃぐちゃに掻き乱す。


何本か、黒っぽい茶髪が指に絡みついた。


気づかぬ間に抜けたのか………


その時、ドアをノックする音がした。


ノックの音を連呼する奴は、あいつだけだ。

「…エディシア?」

「ご名答」

と言い、色素の薄い空色の髪をした男が入ってくる。


いくらこちらサイドの人間とは言え、忌々しいザース兄妹の兄だ。


その声に、益々苛立ちを募らせる。



「…なんの用よ。
私は苛ついてるの。わかるでしょう?」

「苛ついてるのはわかりますが、今回は貴方にとっていい報告かと」


エディシアはいつもの、氷のような不気味な笑みを称えているまま、懐からある物を取り出した。


それは、賢者にとって不都合極まりないもの。


私たちにとって、とても都合がいいもの。



「!!それ………」

「機嫌は直りました?」

それどころか、これほど嬉しいことはない。


苛立ちは、一気にどこかへ吹っ飛んだ。

自然と口がつり上がり、
目が細められる。


「ふっ、ふはははは、よくやったわ、エディシア……」

「お誉めに預かり嬉しい限り。それから、今回は私個人の相談をしに参ったのですが……」


相変わらず彼の口は笑ったままだ。

ただし、瞳はそこだけ雪女に見初められたかのように凍りついている。


「これは、私個人が考えた作戦です」



そして、エディシアの話が始まった。


その作戦の内容は、画期的であり、確実に賢者を闇に葬ることが出来るものだった。


「だから、貴方に協力してもらいたいのですが…」

「もちろんよ」

魔女の機嫌は、一気に直った。


「ふふふ、何も知らないでしょうね、奴らは……ターゲットは?」

「それはもちろん……」

エディシアが少し間をおいた。









「一番ひっかかりそうな、
スカイナ・フレデリカです」


なら丁度いい。

今は朝じゃないか。


「わかった。今日決行するわ」

そして、光の賢者を抹殺する。


スカイナにとっての、
最悪の1日が幕を開けたことを、彼はまだ、知らない――――…
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