novel
□結晶伝説 転4
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ルダールの呪いが解けてから、5日が経過した。
アトラスがあれから任務に行かなかったのは、当然、
魔獣ルダールに殴られ続けて、体中に大怪我を負ったからだ。
アンディに言わせれば、
「不死だからなんとかなったものの、普通の人間なら少なくとも3回は死んでる」
とのこと。
確かに、セイムに集中治療を受けたものの、まだ絶対安静を余儀なくされている。
重傷はいつものことだが、
さすがに今回は無茶しすぎた。
まだ、体中あちこちが痛い。
その時、医務室の扉の奥からノックと女性の声がした。
「入るわよ」
と言い、入ってきたのは大人になったレイラ。
格好はいつもの赤と紫の毒々しいコートに戻り、飾り羽根は頭に刺さらなくなったのか、服と同じ色の帽子にちょこんとついている。
だが上半身のある部分は相変わらず豊かで、歩く度にゆさゆさと揺れ、目のやり場に困る。
「レイラ、元気?」
「これが病気に見える?」
今着ているコートのような、
毒で返事を喰らいたじろぐアトラス。
するとレイラは、一枚の報告書を提示した。
「次の水晶の在り方が判明したわ」
「えっ!?」
突然のことに、アトラスはベッドからガバッと起き上がる。
レイラがふぅ…とため息をつく。
「1人で何驚天動地してんの?呪いが解けたルダールの夢に、無なる魔女が現れたのよ」
そういえば、エッドもウラヌスの祠に行く時、
「夢で魔女が予言した」
と言っていた。
どうやら呪いが解けると、無なる魔女が夢に出て予言してくれるらしい。
「…場所は?」
「いきり立つのはいいけど、まず報告書に目を通しなさい」
レイラに一括され、
アトラスは彼女から渡された紙に目を読み通す。
「…これから、水晶に関する任務に行く時は、必ず呪いを持った7人で行動すること。
アルカンタ教会修道女長、
アンディ・ザース……」
レイラがそっぽを向いてふぅ、と息をつく。
「ま、妥当な判断だと思うけどね。修行にもなるし、互いが互いを守ることも出来るし」
レイラの言うとおりだ。
魔物も、真の敵も強くなっている。
いつまでもアンディやセイムの背中にしがみついている訳にはいかないし、
第一自分は、普通の人間なら死ぬような大怪我を何度も負った。
このままでは、いつか自分の呪いが解けた時にいつ死ぬかわからない。
命はひとつしかない。
しかし自分は、"不死"を理由に、何度も何度も死にかけてきた。
このままではいけない。
自分は普通に生きたい。
アトラスは、拳をぐっ…と握った。
温かい血が流れて、体内で脈打っているのがわかる。
死んだら、体が冷たくなってしまう。
血が流れなくなってしまう。
そうならないためにも、自分は………
アトラスはレイラと向き合った。
「わかった。7人で行こう。場所は?」
「ピノと出会った街、ドニジアから離れた、レミューダの森ってとこ」
「森………」
ということは、間違いなく魔物も活発なはずだろう。
呪いが解けてないのは、
アトラス、エリーゼ、スカイナ、ピノの4人。
次に呪いが解けるのは誰かわからない。
確率は4分の1。
そろそろ覚悟を決めなければ……
アトラスから返された報告書をレイラが二つ折りにして膝に置くと、こう言ってきた。
「出発は明日の朝。水晶が破壊されてなければ回収を、破壊されていたら元凶を断ち発作に冒された仲間を守ること。これが任務内容よ」
「…わかった」
「唯々諾々したならいいわ、アトラス。じゃあそれまで、体を休めててね」
と言うと、彼女は立ち上がった。
部屋の外にいこうとするレイラを、アトラスがとめる。
「あっ…最後に、いい?」
「なに」
「いいだくだくって、何?」
「反論せずに人が言うことにただ従うこと」
レイラはそれだけ言うと、
扉を閉めて退室した。
また明日…戦いが始まる。
アトラスは、決意を胸にした後、今は体を休めることに専念した。