novel

□結晶伝説 転3
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「レイラちゃん!!!」

真っ先にエリーゼが、彼女の大きな体に抱きつく。


「あ、いや…今はレイラさん、かな?」

もじもじと、首を傾げて訂正するエリーゼ。

「どっちでもいいわ」

フッ、と優しい笑顔を見せるレイラ。


今までこんなことなかった。


彼女はいつも、ムスッとしていて…話しかけても、一蹴されることが多かった。


それが、この短時間で成長した。


心も、体も。


彼女の呪いは…今、この瞬間に解けたのだ。



「レイラ…あ、あの、これ………」

アトラスが、自らのジャケットを脱いでレイラに渡す。


大人化したことで、
胸の谷間、へそ、腹筋などがすっかり露わになっているのに気づかないはずはない。


「…あ、ありがと」

彼女は頬を赤らめると、
そのジャケットを羽織った。


「あれっ、もしかしてレイラ、ツンデレラ?」

ピノがいたずらっぽい笑顔でレイラに話しかける。


「…五月蝿い」

返事に困ったのか、毒で返すレイラ。


しかし、顔はピノが言うとおり熟した果実のように真っ赤に染まっていた。


「ピノ、ところでツンデレラって?」

流行に疎いスカイナが彼に問いかけた。

「ツンデレとシンデレラを掛け合わせた、ボク特製の造…」

言いかけたところを、
レイラの拳骨がひとつ。

彼女は顔を真っ赤にしたまま、
ふいとそっぽを向いた。


「それより、水晶は?」

そのまま話を逸らす。

「セイムさん達が回収してる」

スカイナが答えた。


と、丁度その時、セイムとアンディが仲間たちに駆け寄る。


「終わったわよ」

アンディがそう言った。


「じゃあ、帰ろっか」

セイムが全員に呼びかける。


帰ろう。


教会へ。




















PM17:32 アルカンタ教会


飛行船から降りたアトラスの動きが止まる。

そこに立っていた人物に、見覚えが無かったからだ。

瑞々しい水色の短髪に、
穏やかな深緑の瞳。

しかし、その瞳の奥は冷酷な何かを秘めており、どこか恐ろしさを感じた。




だが、この髪は、瞳は、顔は…………




セイム、アンディのザース兄妹に、よく似ていた。



そう思っていた時、
アンディが飛行船から降り、そしてそのまま驚愕の表情を残し固まった。


「エディシア…!!あんた、どうしてここに………」

「久しぶりだね。我が妹…」

「何の用なの?」

「何っ、て……」

とエディシアが言いかけた時、レイラとセイムが揃って降り、やはり同じ表情になりアンディと同じように固まる。


エディシアはニコニコと笑いながら、大人になったレイラを見つめていた。

「姿形は違うけど…君はレイラ・クーネリアでしょ?」

「エディシア…!!」

レイラがギリっと歯を食いしばった。


エディシアは相も変わらず表情を変えないまま、レイラに向かって手を伸ばす。

「上層部から命を言い渡す。レイラ・クーネリア…君を上層部に軟禁する」

「!!!!!」

エディシアのその一言で、
場の空気が凍った。


この人は何を言ってるんだろう?

と、アトラスは本気で思った。

動揺を隠しきれないアトラスたちに、エディシアは更に続ける。


「だって、君は元々子供姿だっただろ?
だから、何でその姿になったのか、詳しく聞かせてもらいたくてさ。
まぁ、軟禁って言っても、
ちょっと尋問して僕たちに付き合ってもらうだけだから、安心しなよ」

屈託のない笑顔で、とんでもないことを言い放つエディシア。


レイラが彼をキッ!と睨む。

「…お断りするわ。誰が貴方達に……」

「やだなぁ。最初に言っただろ?」

エディシアが笑いながら、
目を細めて卑しい表情をする。


ずっと変えずにいた笑顔がもはや、歪曲した表情にしか見えなかった。

「これは命令だ」

その一言が、とても重くのしかかる感じがした。

レイラが、そう言われて仕方なく、すっと前に出る。


「レイラ!!!」

ピノが呼びかけた。

レイラは無言で首を振ると、エディシアと共に教会へと入っていった。


のしかかる絶望と喪失感。


この時アトラスは、実感した。



…この人達は、敵だ、と。
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