novel
□結晶伝説 転2
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エッドの呪いが解けた翌日。
AM8:30 事務室
「…つまり、その水晶の破壊が、呪いを解くのに繋がるってこと?」
机の横にいるスカイナが、
首を傾げて訊いてくる。
「ああ、シルヴァって馬鹿がそう言ってた」
エッドが答える。
昨日、シルヴァの策略で重傷を負った彼は、タンクトップに全身包帯の、痛々しい姿で場の中心にいた。
「ただ、それには激しい苦痛を伴うと…」
レイラが足を組んで、紅い瞳の鏡にエッドを映していた。
「…呼吸困難、心臓麻痺、あと、なんか体ん中に溜まっているエーテルが爆発するみたいだから、頭が死ぬほど痛い」
それを聞いて、露骨に怪訝な顔をするのは、ピノとルダールの2人。
「…そんなんだったら、呪い解けなくていいかも……」
「…オレも」
そこにレイラが、ガンを飛ばした。
「不謹慎。このまま酔生夢死の生活を送りたいの?」
「彗星虫?」
「…馬鹿」
発音の違いで意味を理解していないと悟ったのだろう、レイラはしかめっ面のまま顔を抑えた。
エッドが、スカイナにちらりと目をやる。
「ああ、何もない一生を送るってこと」
場に、納得する空気が流れる。
その空気の中、アトラスが挙手をする。
「あのっ、それで魔女が、次の水晶がある場所を、教えてくれたんだけど…」
アンディが、真っ白な、ミニスカから出た足を組む。
「場所は?」
「えっと、フーシナルって街の近くの、スプラスタ廃坑ってトコです」
それを聞いて、顔を歪めたのは、セイム、アンディのザース兄妹と、スカイナ。
「よりによってスプラスタ廃坑…」
アンディがケープのついた黒い帽子を取り、頭を下げ、長細い髪を弄(まさぐ)った。
エリーゼが、不思議そうな顔を浮かべ、ふきだしの雲にはてなマークを浮かべていた。
「…もしかしてそこ、魔物さんたち強いんですか?」
「危険度のレベル10段階で表すなら、あそこはレベル8」
スカイナがエリーゼに目を向けた。
「奥に進めば進むほど、凶暴な魔物が待ち受けている。一層の魔物を二層の魔物が食べ、その二層の魔物を、三層の魔物が食べる。
まるで弱肉強食のピラミッドをそのまま表すかのように」
アンディが顔をしかめ、ため息をした。
「スカイナの言うとおり。
しかも最下層には、デスグレムリンっていう、厄介なやつが住み着いてんのよ。
今まで入った冒険者たちは皆、途中で逃げるかそいつに殺されるかのどっちか」
その言葉に、レイラが反応した。
「…つまり、逆を言えば、水晶は最下層にある確率が高いってことね」
その言葉に、しーん、と場の空気が静まり返る。
しばらく間を空けて、ようやくアンディが結論を出した。
「だーもう、わかった!!
私も兄さんも同行するから、とにかく行きましょ!!」
セイムがニッ、と笑う。
「流石、僕の妹。度胸が座ってるよ」
「しょうがないでしょ、死なれたら元も子もないんだから。
あっ、それからエッド、
あんたは留守番ね」
「はぁ?」
「だって、その大怪我で行く気?
医務室行って横になってなさい、治癒術使える人いないんだから、絶対安静」
その言葉に、「う゛っ」と声を漏らすエッド。
確かに、彼の傷は普通なら全治1ヶ月はかかるだろう。
それを、無なる魔女であるバニラメルダと、セイムの力で最大限の処置をして、まだ全身の包帯が外せない状態なのだ。
多数決をとっても、満場一致で絶対安静が勝つだろう。
エッドは渋々、承諾した。
「じゃあ、各自部屋に戻って支度!!
エッドは私について来て。
医務室に案内するから」
「へーへー」
「言葉遣い」
「…はい」
というコントのような会話を交わすと、2人は部屋から退室した。
AM9:17
目的地、スプラスタ廃坑。
―――――――任務、開始。