novel

□結晶伝説 転1
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…ここは、ある城の最上階。

窓の外に広がる景色は曇天だが、それが彼女には丁度よかった。

あれから700年、ついに待ち焦がれた時が来たのだ。


愚かな人間どもに首を落とされ、体も、骨の髄も残さず消し炭にされ、その灰は粒子ごと川に流された。

あの悪夢から長い時を経て、私は蘇ったのだ。


だが、誤算だったのはあの忌々しい7人の人間も、
善なる魔女も、無なる魔女も、この世に存在していることだった。

何故、再びキャストをすべて集めたのか…


だが、今回広げられるのは喜劇じゃない、悲劇だ。


彼女は今にも雷が落ちてきそうな曇り空に向かって手を広げると、口端を吊り上げた。


「わたしは悪なる魔女………人間どもに復讐を果たし、世を破壊する時が、ついに来た…はは、フハハ、アッハハハハハハハハハハ…」

魔女の高笑いは、天を突き抜けるように響いていた。




















アルカンタ教会

アトラスは、分厚い本を何冊か持ってくると、机に小さな山を積み上げて形成した。


「アトラスさん、そんなに読むんですか?」

珍しく蜜柑色の髪を三つ編みにまとめた、エリーゼが問いかけてくる。

「うん、700年前の三大魔女戦争を詳しく知りたくて…」

「お前、今日もかよ?」

机に頬杖をついたエッドが露骨に怪訝な顔をして訊いてくる。

場にいるのはこの3人。

スカイナ、ルダールはアンディと共に魔物退治の任務に行っており、レイラとピノは任務帰りで疲れ果てて自室で寝ていた。



ミラージュの森から騎士団団長のセイムを連れて帰ってきて、早一週間。


彼は『まだここに残る』と言っていたが、スカイナが『妹のアンディさんが心配してますよ』と言ったことで、渋々首を縦にふった。


どうやら彼、地位も強さも明らかに上なのに、ミスリル聖書と断罪武具を振り回す妹だけには頭が上がらないらしい。


確かに、彼女は怒らせるとかなり怖い、ということは無断外出をした時に実体験済みだった。

アトラスは一番上の赤いブックカバーがつけられた本を取ると、表紙をぱらぱらとめくり出した。


もちろん目的は、自分たちにかけられた呪いを解く秘密を探るため。

昨日のセイムの話を聞いて、アトラスのその決意は一層強くなった。


なんとしても呪いを解きたい。

普通の生活を、みんなで送りたい。


アトラスは必死だった。

しかし彼の必死さとは裏腹に、
本に記されている言葉は
『世紀末の大戦争』や
『運命を変えた10人の男女』など
あまり頼りにならない情報ばかりである。

なので途中で諦め、最後まで読まずに落胆してページを閉じた。

机に伏して手を伸ばし、
ため息を吐く。

生温かい空気が瞬時に水滴に変わり、机に小さなもやの塊が出来た。

と、その時丁度、彼女が言っていた言葉を思い出した。


『…また会いましょう……』


自分たちに道を示し、あの場所でアトラスの考えを変えるきっかけを作った……無なる魔女、バニラメルダの言葉である。

…すっかり忘れていた。


彼女に、また会うつもりでいたのに。

もしかしたら、彼女に700年前の戦争を訊けば……

アトラスの瞳に光が宿る。


アトラスはがばっと音を立てて起き上がり、勢いで本の山を崩した。

「な、なんだ、どうした?」

いきなりのことなのでエッドがわかりやすく驚く。


「アルテミスレイク……」

「は?」

アトラスが言い放ったその単語にエッドは眉を歪め、
その一方でエリーゼは反応し、わかりやすく顔に表した。

「無なる魔女…バニラさんに、会いに行くんですね!!」

エッドの耳がぴくりと動く。

「…その魔女、美人か?」

「え?うん。結構可愛いよ」

アトラスがそう言うと、
エッドは何か考える素振りを見せた後、鼻の穴を膨らませた。

「よし、会いに行くぞ!!」

「早っ!!ていうか、外出許可貰わないと…」

アトラスが止める間もなく、エッドはさっさと自室に戻って支度をしに行った。

呆れて言葉が出ない。


「…僕たちは、セイムさんに許可もらいに行こっか」

アトラスはひとつため息をつくと、横にいるエリーゼに話しかけた。

「そうだね。やっぱり、みんなで行った方がいいかな?」

彼女が訊き返してくる。

「その方がいいんだろうけど、エッドが待っててくれるかなぁ…」

正直、その確率はかなり低い。

女好きの彼のことだ、
その前にとっとと出かけてしまうだろう。

「…レイラとピノだけ、叩き起こして行くか」

アトラスが独り言のようにそう呟くと、

「じゃあ私、外出許可貰ってきますね」


エリーゼが慌てるようにして事務室へと向かった。


この時、彼らはまだ気づいていなかった。

この決断が、1人の男の運命を大きく変えることに――――――……
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