novel

□結晶伝説 承2
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アトラスとエリーゼが無なる魔女に会ってから、一夜明けた朝。

2人は事務室にいた。

目の前には笑顔のアンディ。

ただし、その笑顔は明らかに作り笑いであり、眉間とこめかみ、それから頬に寄った怒りマークのシワは隠しきれてなかった。


その威圧的な笑顔に押され、冷や汗をかきながら目を逸らすアトラスと、状況が読めてないのか、真っ直ぐに彼女を捉えているエリーゼ。


彼女は一言も発さないまま、
怒り混じりの笑顔で2人を見ていた。


「どーゆーことか、説明してもらいましょうか?」

長い沈黙を置いて、ようやく彼女が話しかける。

声にも威厳があり、
一瞬、開いた瞳は明らかに怒っていた。

「私に無断で外出するとはいい度胸じゃない。もしかしてデート?」

「…違います」

「目を見て返事しなさい」

「……はい」

だが、彼女の怒った表情は
まともに目を合わせたら石にされてしまいそうだ。

そんな彼女をしっかりと見据えているエリーゼはすごいなぁ、とアトラスは思った。


「すみません、私たち、魔女に会いに行ってました!!」

エリーゼが立ち上がって
頭を90度に下げる。

「魔女?」

「はい、世界三大魔女の、無なる…魔女のところへ…」

「無なる魔女?」

その単語を聞いたアンディの顔つきが明らかに変わった。

そして何かを考える素振りを見せた後、ため息をついて頭を掻き、普段の表情に戻った。

「…わかったわ。今回は特別にお咎めなしにしてあげる。けど次回からは、容赦しないからね」

「ありがとうございます!!!」

2人は揃って立ち上がり、頭を下げた。

それほどまでに力があるのか、世界三大魔女は…

その時アトラスは、彼女が最後に言った言葉を思い出した。


『ミラージュの森へ行きなさい』

彼はハッとなり、
アンディと再び対峙する。

「あのっ…ミラージュの森ってどこですか!?」

それに感づいたのか、
アンディがアトラスを睨みつける。

「…行くわけ?」

「ええ、まぁ、はい、えーと…」

「あのねぇ、私がさっき言ったこと忘れたの?
無断外出は……」

「でも、呪いを解く秘密がわかるかもしれないんです!!」

嘘だった。

ただ、また無なる魔女と会えば…何かがわかるんじゃないか、そう思ったのだ。


アンディはそっぽを向いてふぅ、と息を吐く。


「…そこなら、兄のセイムが長期任務で行ってるはずだから、護衛を理由に行ってもいいわよ。
それに兄は、私よりもずっと呪いに詳しいから。
ただし、7人全員で、ね」

「本当ですか!?」

「ええ。上層の連中にはそう伝えておくわ」

「ありがとうございます!!」

アトラスは、再び頭を下げた。

















「ひらーふぼほり?」(訳:ミラージュの森?)

口に朝食のサンドイッチを突っ込んだまま、ピノが聞き返してきた。

もちろん、腐毒の呪いを持った彼は念のために、とビニール手袋をつけたままの食事だが。

アトラスは他の6人を全員集め、7人で卓を囲っていた。

「うん。無なる魔女が、そこに行けって言ってたんだ」

「えっ…無なる魔女って、まさか、世界三大魔女の?」

ウーロン茶をストローで啜(すす)っていたスカイナが素っ頓狂な声を上げた。

「うん。昨日会いに行ってきたんだ。あの時の現象を確かめたくて…」

「…それで軽挙妄動な行動に出た訳ね…」

レイラが机に頬杖をつき、
冷めた目でアトラスを見た。

「…ごめん。でも今回は、アンディさんが了解とってくれたから。お兄さんの護衛及び迎えに行ってくれ、ってさ」

そう言って、アトラスは頭を下げた。

正直、昨日エリーゼと独断で行動してしまったため、まともに顔を合わせられない。

こころの中では怒ってるんだろうな…

「わあった。支度すませたら行こうぜ。今度はみんなで、な」

エッドが立ち上がる。

それにつられたように、
他の4人も支度をし始めた。

アトラスとエリーゼは、
2人して顔を合わせ、明るい表情をお互いに見せ合った。


目的地はミラージュの森。

そして運命は、大きく流転することになる――――――…
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