novel

□結晶伝説 承1
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AM7:00

アトラスとエリーゼは、
夜中にこっそりと教会を抜け、セレスティア大陸北部を走る列車、マリーゴールド号に乗っていた。

目的はこの大陸の一番端にある小島…アルテミスレイク島に行くため。

この電車の終点はそこだ。

ただし、アルテミスレイク島は森と湖以外何もないところなので、よほどの物好きでなければ降りるような人はいない。

昨日のエリーゼの話だと、無なる魔女の住処は

『月が世界で一番美しく映える場所』

らしい。

島の名前、アルテミスレイクを直訳すると月女神の湖。


あまりに単純な考えだが、
とりあえず行かなければわからないので始発に乗って行ってみることにした。

外の景色は統一されることなくすごいスピードで変わっていき、時折教会がちらちらと見える。


「飲み物、買ってきますね。アトラスさん、お茶とコーヒー、どっちがいいですか?」

こんな時でもエリーゼは呑気だが、よく言えば優しい。

「…じゃあ、お茶で」

アトラスは窓の外をぼんやりと眺めたまま返答した。


(…今ごろ、みんな怒ってるだろうなぁ……)

特に女性陣…アンディとレイラあたり、毒づいているのが目に見える。

それもそうだ。

あの現象…アトラスとエリーゼが触れ合った瞬間に何が起こったのか、何故エリーゼは助かったのか、2人の夢に現れた人物は誰なのか…

それを確かめるため…そのためだけに、教会を無断で抜けて勝手に行動している。

上層部はカンカンだろう。


ぼーっと外を眺めていると、
急に山の輪郭がぼやけ、やがて靄(もや)に襲われた。

濃霧だ。

山の奥に入ったから、
辺りに霧が立ち込めたのだろう。


もはや1m先も見えない。

「はいっ♪」

突然、目の前に暖かく黒い缶が突き出される。

「ごめんなさい、ホットコーヒーしかなくって…」

しかも表示を見ると無糖。

そして、エリーゼも同じブラックの缶を持っている。


「…飲めるの?」

アトラスが尋ねてみると、
エリーゼはにっこり笑って

「飲んだことないけど、チャレンジです♪」

と言い、缶のタブを押して開け、鼻をつまんでゆっくりと飲み始めた。

まるで苦手な食べ物を我慢して食べるかのように。


「いい!!無理しなくていいから…」

とアトラスが止めに入った瞬間、エリーゼは慌てたのか缶の中身をぶちまけた。


…ちょうど、アトラスの頭上に。

「あつぅぅぅ!!!」

「ごめんなさい!!だ、大丈夫ですかっ!?」

なんとなく想像出来ていた惨状。

頭皮が焼けるように熱かった。

「大丈夫、大丈夫だから、あはは…」

それでも、エリーゼに心配かけまいと何とか作り笑いをするアトラス。

だが、周りから見たら困り顔にしか見えなかった。

同じ車両から失笑が漏れる。


それを受けたのか、顔を真っ赤にして謝り続けるエリーゼ。

瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。

そんな彼女を見かねたのか、アトラスは彼女の頭を優しく撫でた。



そしてにっこりと微笑む。


「大丈夫だよ、エリ…」


とその時、丁度列車が山間部にあるトンネルへとさしかかった。


辺りが急に暗くなる。

「空気読んで欲しいよ、まった…く?」

体に何か暖かいものが、
倒れるようにして寄りかかる。

状況がよくわからないが、
時折すぅすぅと聞こえる寝息を考えると、エリーゼが寝ているらしい。

アトラスは、ふっと笑みを漏らした。

「そういえば夜まともに寝てなかったね。
僕も、寝ようかな…」

アトラスはエリーゼを包むように優しく抱きかかえたまま、座席に腰掛けて目をゆっくりと閉じた。

列車がすごいスピードで目的地に向かっている中、2人は寄り添うように優しく眠りについた。
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