novel

□結晶伝説 起2
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アトラスたち4人は、
教会が用意した飛行船に乗って、アルカンタ教会本部があるセレスティア大陸に向かっていた。

昨日案内されたあそこは、
ナージタやカテラスがあるフリードロゥ大陸西側に
一番近い場所らしい。

いくら町とは言っても、
両方とも田舎。

…だから、閑古鳥が鳴いていたのだ。

これで、また1つ謎が解けた。

と、アトラスが1人で納得していると、エリーゼが外の景色を見て、はしゃぎだした。

「わぁ〜♪空が綺麗だよ♪
アトラスさ…」

「え?あ、うん、そうだね」

考え事をしていた彼は、
つい曖昧な返事をしてしまった。


何を考えていたかと言うと、昨日の事だ。

エッドが見せた過去の傷…

おびただしく広がっていた、あの、火傷の痕…

…自分は、いつの間にか親に捨てられ、大人に親切をして、お金を貰い、生活をしていた。

ある程度年を経ると、
複数の仕事を同時にこなせるようにもなり、
それで自分の住処も確保した。

不幸か、と訊かれたらそれほどでもない。

しかしエッドはどうだ?

エリーゼは?

スカイナは…


少なくとも、自分より過酷な環境で育ってきたのではないか。

そう考えると、
無性に胸が熱く、痛くなった。

呪いを…断ち切るんだ。


アトラスがそう、決意した時だった。

「ついたよ」

スカイナの声。

飛行船はアトラスが思考を張り巡らせていた間に、
目的地に着いたようだ。

プシュー、という音と共に、
扉が開く。


「行くか」

エッドが冷静に言う。

今日からここが、僕達の新しい家――――…















教会本部は、期待を裏切らない
外観だった。

教会、というか、まるで城のよう。

壁は真っ白で、日焼けの跡など影すらない。

中央に大きく掲げられたマリア像も、入念に手入れされているようで、太陽の光に反射して輝いていた。


昨日見た派遣所とは雲泥の差である。


金属製の重い扉が、ゆっくりと開く。

「じゃあ、行こうか。
まずは呪いを知ってるあの人の所へ行かないとね」

スカイナに促され、
3人は中へと入っていった。
















スカイナに案内されて、
教会の中を歩く4人。

内装も豪華だった。

辺り一面白い壁に覆われ、
廊下も塵1つ落ちてない。

だが、城のような外観に反し、
中は何もない、というのが少し寂しくはあったが。

そしてスカイナは、
小さくかしこまったような茶色の扉をノックする。

『どうぞ』

女性の声。

「…失礼します」

スカイナは一瞬ためらってから、扉を一気にばっと開けた。


そこに座っていたのは、
碧く長細い髪を下の方で結い
黒い服を身にまとった…

「シスター!?」

アトラスは思わず声を上げた。

意外だった。

呪いの秘密を知っているというのが、まさか自分より1〜2歳しか年の差が無さそうな女性だったなんて…


しかし、着ている黒服は
頭に十字架の紋章、
清楚で味気ない生地、
襟首から覗く白いブラウス…
と、修道女としての正装を彼女は完全に着こなしていた。


スカイナが、おずおずとしながら尋ねる。

「あの、セイムさんは…?」

「兄なら任務。ていうかスカイナ、依頼は?」

「完了…しました」

「ならすぐ報告!」


…修道女の割には、
随分とキツそうな女性である。

スカイナは頭をぺこぺこと下げながら、
あっ、と思い出したように
彼女を紹介する。

「この人がアンディ・ザースさん。
教会のシスターで、自分も戦える人だよ」

名前を聞いて、アトラスは「ん…?」と記憶回路を探り出す。


確か…どこかで聞いたような…

と思ってるうちに、
エリーゼが息を呑んだ。

「もしかして、スカイナさんが言ってた、鬼畜レベルに強い女性(ひと)って…!!」

「そう、彼女。
残念ながら、呪いについては詳しくないんだけど…」

「ええ」

アンディが口を挟む。

「呪いをよく知ってるのは私の兄…セイム・ザースよ。
てことはスカイナ、
エリーゼも含め、まさか彼らが?」

「はい。僕と同じように…呪いに罹った人たちです」

「ふぅーん」

彼女は深緑の瞳の焦点を
アトラスに合わせると、そこからエリーゼ、エッドの順にぐるっと見回した。

「言っとくけど」

一同を見ると、
彼女は机に肘をついて、
艶のある唇を動かし始めた。

「呪いのこと、あんま人に言いふらさないように…。
この教会で知ってるのは、
私と兄のセイム、
それから上層部の奴らよ。
特にエリーゼは、ここに戻ってきてる事、くれぐれも上の奴らに悟られないように…。
貴女があそこでどんな目に遭ったか、貴女自身が一番分かってるでしょ?」

「…はい」

エリーゼは、唇を噛みしめて返事をした。


「じゃあ私からは以上。
後で依頼を言い渡すから、
それまで部屋で待機…。
早くてもレイラが帰ってくるまでは、出来るだけ何もしない事。了解?」

「はい!!」

スカイナとアトラスだけが、
威勢のいい返事をした。



そしてこれから、
新たな生活が始まる――――
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