novel

□結晶伝説 転4
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AM11:43 ドニジア

アトラスは限界まで体を伸ばして盛大に欠伸をすると、肩をおろした。

さっきの饅頭を昼食に早速出発するのかと思いきや、
今は食休みらしく、ピノはベンチに腰掛けくぅくぅと寝ていた。



よく言えば場を和ませているが、悪く言えば能天気すぎる。


その眠気につられたのか、
欠伸は仲間たちに伝染し、
眠い雰囲気を仲間内に醸し出している。


それに根負けしたのか、スカイナ、エリーゼ、更にはレイラ、エッドも寝ていた。


今回の任務の意味を、内容をわかっているのだろうか。

「まーったく呑気だよなぁ」

この前呪いが解けたルダールが、鷹のような頭を掻いた。


そうだ。

ルダールも呪いが解けたんだ、何か知っているかもしれない。



「ね、ねえ、ルダール」

「おう」

「ルダールは…呪いが解けて……良かった?」


返ってきたのは暫しの沈黙。


一気に空気が重くなった。


しーん、という擬音が賑やかな町を一瞬通り過ぎる。

「…わかんねえ」

沈黙から1分経過、ようやく答えが返ってきた。


「呪いは無くなって嬉しい。
これでもう、魔獣に変身することはねぇんだから。
でも……言葉にゃ出来ねぇ、何か複雑なもんが……ある」

と言うと、彼は拳を握りしめた。


そういえば、呪いが解けた3人は、表面こそ笑っていたが、嬉しさが伝わったことはない。

それは何か、人ならざるものを解放した時に、同時に何か大切なことを、悲しいことを理解したのか………



わからなかった。

わからないからこそ、
アトラスはそれが何なのか早く理解したかった。


自分の呪いは"不死"。


だが、この人ならざる呪いが、皮肉にも役に立っているのは確かだ。

普通に生きたいはずなのに。


いつの間にか悪なる魔女という奴の戦いに巻き込まれ、それで……………



「せーの、」


子供の声がし…………

「カンチョ――――――!!!」


そして、尻から伝わる変な激痛。


アトラスはそれに、声にならない悲鳴を上げた後、
又を抑えてうずくまった。

一瞬、白目を剥いて変な顔をした気がした。



まだ体の痙攣が止まらない。



「ピ…………ピ……ノ……………」

「えっへん!!大成功ブイーっ!!!」


本人は笑顔でピースまで作っているが、こっちはそれどころではない。



「あははは、ピノは相変わらずだなぁ」

「笑い事じゃないんだよスカイナーっ!!!」


アトラスは首を90度捻ってくすくすと笑うスカイナを見た。


いつの間にか、他も全員起きている。


「おぅ。起きたのかみんな」

うずくまるアトラスをよそに、ルダールが話しかける。

「強力な目覚ましがあったからな」


エッドが小指で耳を掻いた。

強力目覚まし、それはもちろん、ピノの『カンチョ――――――!!!』だろう。


他全員も目覚めていたらしく、
眠たそうに欠伸をする者、
完全に目を覚ますために屈伸をする者もいる。


スカイナが、全員を見渡した。

「そろそろ行こう。アトラス、立てる?」


「無゛理゛がも…じんない」


「レッツラゴー!!」


アトラスの先ほどの言葉を普通に無視して、ピノは走り出した。

レイラがふぅ、とひとつ息を吐く。


「馬耳東風、ね」


人の話も聞かずに走って行くピノを、仲間たちが追いかける。


「ほらアトラス、立って」

レイラがすっと手を伸ばした。


それに掴まり、まるで腰の悪い老人のように立ち上がるアトラス。


「行くわよ。あの猪突猛進小僧に追いに」


と言い、レイラも歩き出した。


アトラスもふらつきながらも、仲間たちの後を追った。


今度こそは――――――…何も起こらないと、信じて。
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