novel

□結晶伝説 転4
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AM8:27 アルカンタ教会事務室


アンディ・ザースは、
依頼完了の報告書処理に追われていた。


この前の落雷事故の処理、
それにより発生した難民の保護、さらには活発化した魔物の退治。


それら全てを読み通し、
報告漏れが無いかチェック、
それから判子押し。



もちろん、賢者たちだけではなく他の人間とも構って、時に鍛え、時に指導しなければならない。


修道女長の仕事は、
周囲が思っている以上に忙しいのだ。



その時、部屋の扉を叩く音が聞こえた。


部屋に入る時、わざわざノックを3回もするのは1人しかいない。

「…兄さん?」


「ご名答」


という返事と共に、
屈託のない笑顔を浮かべたセイムが入室した。


と同時に、所持していた緊張感を一気に崩すアンディ。


「…あれで……よかったのかなぁ」


アンディはかしこまっていた姿勢を崩すと、黒い椅子に背中を預けた。


あれとはもちろん、
呪われた7人に関することである。


報告書…というか上からの指令書のようなものだが、問題は内容。


『呪いに関する依頼については、必ず7人で行動すること』


この判断を下したのは、
今まで3人の呪いが解けた際、
必ず何かしら嫌なイベントがあったからだ。


そして共通していたのは、
7人のうち、必ず誰かが欠けていたこと。


エッドの時………スカイナとルダールがいない代わり、セイムが彼らに同行した。

だが敵は睡眠ガスで全員を眠らせた後、不眠の呪いを持つエッドのみを孤立させ、彼の殺害を狙った。



レイラの時………敵の策略で重傷を負った、エッドが欠けていた。

あの時は、悪なる魔女の策略かは定かではないが、結果的に水晶は破壊され、レイラは発作を起こした。



そして先週、ルダールの時……エッドとレイラが欠け、更には悪なる魔女が現れるという最悪な展開が待ち受けていた。


しかもそれは魔女の分身で、本体ではない。



それでさえ、彼らは苦戦を強いられた。



そこで考え出したのが、
『7人全員で行くこと』だ。



これで何かが変わるとは思わない。

だがこれは修行のためであり、彼らの絆を再確認するためでもあるのだ。


彼らはまだまだ伸びしろがある。



まだまだ成長する。

今回、それに賭けてみたのだ。


「さぁ。結果は………やらなきゃわからないよ」

ずっと黙っていたセイムが、優しい笑みを見せて答えた。


エディシアとは大違いだ。


彼の笑顔は氷のように冷たく、あたたかさが微塵にも感じない。


同じ、ザース家の兄弟なのに、何故ここまで違うのか………


アンディは考えを払拭すると、彼につられ、口元を崩した。





















AM8:45 ドニジア

賑やかさが増している繁華街。

以前は流行病の関係で訪れていたが、今回は違う。



"不死"、"エーテルリバース"、"透明化"、"腐毒"、
この呪いのどれかを解くためにきたのだ。



ここから離れた森の奥。

レミューダの森…………そう、呼ばれる場所へ。



だが…………



「ねえ、お饅頭食べていい!!?」

「あっ、じゃあオレのぶんも頼む、ピノ!!」

「エリーゼちゃんも食べる?」

「本当!?ありがとう、ピノくん♪」



……………想像通りだが、
やはり仲間たちに『緊張感』の三文字はない。

なぜここまではしゃげるのか不思議なくらいだ。



相違点といえば、エッドは珍しく女の子探しをしていないくらいだろうか。


「はいっ♪」

エリーゼが、串に3つほど刺さった饅頭を突き出した。

「アトラスさんのぶんです♪」


よく見ると、彼女の両手には人数分の焼き饅頭がある。


「アトラスさん、たまには、柔軟な心を持つのも大事だよ♪」


彼女の笑顔は、人を癒すちからがあるのか、アトラスの心もほぐれた。


「…いただきます」

アトラスは、饅頭にかぶりついた。

「美味しいよ」


ふふっ、とエリーゼは柔らかい笑顔を見せた。
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