オリジナル

□春酔い
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大体が大体、起こるはずのないことなのである
私が見たものは
起こりえるはずがないのだ

そうだ夢だと終わらせてしまいたい・・・だが
あの鮮やかな残像が目の裏に焼きついて離れようとしない
そう決してそれが夢ではないのだと告げるように



春酔い








武士と農民とその他貴族そんなものがある時代だった。
私の名は喜兵衛。
この話を残すものである。
何度も思案したがやはり一人抱え込むこともできずここに記す。





一百姓として生まれた私は幼いころに火事で両親をなくしついでたった一人の兄弟である兄でさえ数年前に突如行方不明になった。最後に見たのは山に仕事に行く姿だった。
私は十五を迎えると村娘と祝言を終えた。
自分の血族がいなくなりはしたものの私はこれといって感慨を受けることはなかった。
この祝言もとくに深い意味はなくただ村に年のあうものが彼女しかいなかったからゆえである。
よって私たちは初夜を終えると夫婦らしいこともすることなくただ毎日挨拶を交わすだけであった。
そんなものだと私も彼女も思っていたと思う。






ことの発端は梅の舞台が終わったころだった。






いつものように畑の手入れをしていたとき妻である「おさち」が私に薪が足りないといった。
まだ日は高かったので、おさちに桜神山にいくというとおさちは戸惑ったように見えた。
しかし私は引きとめようとする彼女を軽くあしらって山に向かった。
彼女が引きとめようとした理由はおそらく現実味のない語りによるものだろう、私は勝手にそう解釈した。

思えば、それは必然だったのかもしれない。
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