戯作

□OD´s
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ある一日。


朝六時。
一番早く起きるのは居候の奈木野実涯である。
リビングのカーテンを開けて朝食の支度にかかる。


七時。
家主の邑神秋流が起きる。朝食を食べながら新聞を読んでいると実涯に取り上げられたので殴って奪還。朝の郵便物は新聞と秋流にエッセイの依頼一通、新聞の歌評一通。


十時。
出版社の人と打ち合わせ、と言って秋流外出。
「出掛けるなら鍵掛けて行けよ」
と一言。


十一時。
これからの活動について討論。
「恋歌なんかどうすか?」
「冗談。ここ一年女っ気なんてゼロなのに」
内線が入る。
「はい」
『奈木野さんがお見えです』
「通して」
実涯もすっかり編集部の常連だ。
「秋流ゥお弁当作ってきたよお」
実涯が現れると編集部に黄色い声。
「忙しいんだろ?無理しなくて良いんだぞ」
「良いの、俺がしたくてしてるんだから」
ちゅ、と頬にキスすると秋流の平手打ちが炸裂。
「帰れ」
「はぁい。じゃ、俺も仕事に行くからこれで」
ひらぁりと手を振って実涯は去っていった。


十二時三十分。
中身はオムライスだった。
ケチャップでハートが描いてあり、秋流はあいつは何考えてるんだ、と首を傾げながら食した。
余談ではあるが、編集部内では秋流と実涯のどちらがタチかネコかという賭けが一部女性陣の間で流行っているらしい。


午後二時五分。
打ち合わせ終了。
出版社を出て近所の喫茶店に入る。
次回作は「恋歌」で押し通されてしまったので、早速作歌。自らの恋愛歴を省みる。
一人目は、どんなに愛しても到底振り向いてくれる筈のない人だった。
二人目は互いを誰かの代用としてしか見られず、傷付け合って壊れた。
三人目は、「もう二度と恋なんてしない」と誓いながらどうしようもなく惹かれ合った。しかし誓いに操立てして離れた。
「俺の恋愛歴って一体…」
あまりの報われなさに、もはや溜め息しか出ない。
歌も出ない。
「下ネタな歌なんか作ったら行谷さん(担当編集者)怒るしな」
諦めて作歌帳を閉じた。
ココア(ガムシロ三つ入り)とチョコレートタルトを注文した。
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