戯作

□雑談。
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夏である。
もわりと陽炎の立ち上る平坦な道を黙々と歩く、神宮
和昌の額にも汗がにじんでいる。
二又の道の右を選んで進み、分かれた道が再び交わる
場所に定食屋『鳳栖堂』があった。
店主自らが書いたという、自称橘逸勢風の字(どこが
どう逸勢風なのか神宮にはさっぱりだ)の看板は既に
見慣れたもので、戸を引くと温い風が湧き出てきた。
相変わらず客はおらず、テーブルの上に両足を上げ、
浴衣の裾を太股ギリギリにはだけさせ胸元を思いきり
寛げ濡れた手拭いで顔を覆い、団扇を持つ手を力無く
垂らした店主がいるだけである。
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