10/16の日記

00:27
予想外に演技派で、うっかりトキめいた
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うたプリ(レン那)


アイドルたるもの
演技派でなくてはならない

それは
役者として、然り
ファンサービス、然り

「………」

先生に何を言われたか
(まぁ想像に易い気もするけれど)
実習用の台本を眺め
固まっている

その姿を
休憩所に見つけ
思わず苦笑してしまった

(シノミーの場合
無自覚でやってのけそうだけどねぇ)

背後に回り込み
覗き込んだ台本には
台詞の横
赤字で注意が書かれていて

どうやら
"自分を出しすぎる"
ようだった

要するに
役に成り切れてない訳だ

「そうやって悩むのもいいけど
演技なんて
演じて慣らしていかないと
身に着かないと思うよ」

「…そう、ですねぇ」

おや意外
完全に硬直してるかと思ったが
俺の存在には
気付いていたらしい

そのうえで
こんなに簡単に背後を許すなんて
信頼されているのか
どうでもいい存在なのか

「俺でよければ練習に付き合おうか?」

「え!いいんですか?」

「暇していた所だしね」

色々なコトに興味を引かれて
珍しく自分から
首を突っ込んでみた

普段はぽや〜っとしている
シノミーの演技が
どんなものなのか
俺相手に
どんな顔を見せてくれるのか

…まぁ
ちょっとした好奇心さ

暇していたのも
嘘じゃないしね

「まずは注意されたのを抜きにして
シノミーの思う様に
演じてみてくれないかな」

「はい、頑張りますね!」

張り切るシノミーは
ちらり
台本を確認し、すぐに机に預けた

深く一呼吸

役に入り切る一瞬の沈黙
…かと
思ったのは束の間

目を合わせたシノミーは
ほがらかに笑んだ

「ストップ」

「え、あれ?
まだ何も喋ってませんよ?」

「うん、喋る以前の問題だったからね」

これは難儀な…
なんて
少しばかり
先生の苦労を思ってしまった

「いいかい、シノミー
君の演じようとしている
ストーリーは
役は
一体なんだい?」

「えーとぉ…
内気で病弱なヒロインが
余命数か月を宣告され
悩み苦しみながら
それでも悔いは残したくないと
好きな人に告白するシーン…

ヒロイン役です!」

「…台本に書かれた説明書き
そのままをありがとう」

これでもかというほど
感情移入のしやすい設定
いかにもな
悲劇のヒロインだ

「それなのに
なんで笑ってしまうのかな…」

シノミーの思う様に
とは
言ったけれど
台本の注釈がなくとも
ここは笑顔になっていい場面じゃない

百歩譲って
儚げとか
哀しげとか
そういう笑顔ならまだしも

満面スマイル

いったい
どういう神経のヒロインだ
内気設定はどこにいったんだい?

「難しいですねぇ…」

「うん、それ以前だと思うよ」

始まってもいないのに
頭が痛くなってきた

「シノミー
ヒロインを自分自身だと思ってごらん
余命わずかの孤独
それでも止まらない恋心
振られるかもしれないという不安
想いが通じ幸せになっても
相手を残していくしかない未来
自己満足の想いとの葛藤
…ね?」

「……はい!」

「困惑した挙句に
とりあえず笑うのは止めようか…」

ああ
ここまで分かり易く
解説してあげたっていうのに
半分も理解されていない気がするよ

「ヒロインさん
大変なんですねぇ」

「…シノミー、大丈夫かい?」

「僕はなんともないですよぉ」

…どうしようか
予想以上に手強い
うん、まぁ
シノミーが天然だってことは
よく知っていたんだけど

「しかたない…
一度、役そのものを忘れてみようか」

「?」

俺は深い溜息の末
机の上の台本を奪って
背中に隠す

一応、演じる、という意志はあるのか
シノミーが台本を追い
手を伸ばした

けれど、その手は俺が掴む

「ねぇ、シノミー
俺に愛を囁いて?」

引っ張れば
不安定な体勢だったせいで
俺にもたれてくる身体

レディのように細くはない
腰を強く抱いて
身長も殆ど変わらない
格好の付かない状態だけど

その眼を
深く深く見つめる

動揺して不安げな
翡翠の鏡に
甘く
笑みを映して

「"俺に話ってなんだい、那月"」

読み上げたのは台本の台詞
ただし
名前はヒロインのものじゃない

「……レン…くん?」

ああ、そう
笑顔よりはずっと
その顔の方がヒロインらしい

「"こんな場所で二人っきりなんて
初めてで
少しドキドキしてしまうね"」

実際、寮の休憩所で
何をしてるんだろうね俺達は

誰も通りかからない事を
切に願うよ

「"那月?"」

困惑した瞳が瞬き
数度、唇が浅く息を吐き出す

俺に次の台詞はない
次は
ヒロインの台詞

だから、待つ

この距離
瞳を覗き込みながら

「……あ」

心許ない吐息
ふと
シノミーの瞳が色を変えた

俺の服を掴む指先

空回る呼吸
呑み込み

新たな呼吸
受け入れ

「"貴方が、好きです"」

ようやっと
吐き出された
台詞

いじらしい告白は
艶めかしくて
ちょっとだけ
悪戯心が疼いた

「俺が好き?」

本来、続くのはヒロインの台詞
けれど俺はあえて
シノミーに問いかけた

そう、シノミーに

台本と違う
なんて
気付いているのか、いないのか

シノミーは瞳を膜で揺らし
口付けを待つように
目を閉じた

「…僕は、貴方が好きです」

ほんのり熱を帯びて
蕩けそうな声

「ちょっと意地悪で
素直じゃなくて
本当の笑顔なんて
ほとんど見せてくれなくて…」

紡がれる言葉は
俺に習ってか
台本にはない台詞だった

(シノミー…?)

閉ざされた瞳からは
真意は
読み取れない

音だけが
正直に
耳に流れ着く

「でも、僕は知っていますよ
レン君が、とても優しいってコト
厳しさも優しさなんだというコト
今はちょっとだけ
笑顔になるのが恐いというコト」

ふいに
俺を見つめた
優しい翡翠

心臓が、大きく、跳ねる

台本から外れた台詞
その言葉が示す
先は
まるで…

呆然としながらも
目が離せない
そんな俺に
シノミーは微笑みかける

切なく
それでも強かに

「僕では
レン君のお日様には
なれないかもしれない…けど
僕は、貴方の笑顔が大好きなんです
貴方のことが、好きなんです…」

「………」

台本など関係なく
台詞などでは、なく

ストーリーも役も、なかった

俺の腕の中
微笑む
シノミーは
ただ
四ノ宮那月のまま

俺を、好きだと、言っていた

「…ああ、うん
これは参ったね…」

居た堪れなくなって視線を逸らす
抱いた腰
密着する胸が苦しくなって
けれど、解放と同時に
逆に抱き締められてしまった

「シ、シノミー?」

ハグより強く温度を共有して
互いの
ほんの少しだけ早い
鼓動が重なって

離れた時には
いつもの
明るい
シノミーの笑顔が、あった

動揺した俺の手から
台本が滑り落ちる

「ふふ
僕の告白…
おかしくなかったですか?」

拾い上げた台本で
口元を隠しながら
悪戯っぽく
問いかけられる

「え、あ、ああ……
うん
なかなかドキドキした、かな?」

しどろもどろ
口をついた言葉

どう反応したものかと
浮ついた心のまま
ちらり
シノミーを見やれば

思いのほか近く
顔があって

「本当ですか!
ああ!良かったぁ…!
演技指導、ありがとうございました!」

「え」

再度のハグ
そして
あっさりとした解放

「これで次の実習は問題なしですね!」

自信満々
言いきったシノミーは
先程までの
潤んだ瞳と囁きはどこへやら

周囲に花を飛ばしながら
嬉しそうに手を振り
寮の部屋へと帰ってしまった


「………え?」


残された

ひとり

どれだけ立ちつくそうと
シノミーは
戻ってくることはなく

沈黙のまま
何も考えられぬまま
異様に疲れ果て

力無く
椅子に腰かけた

時計の秒針が一周する頃合い
ようやっと
数秒の私案に成功して

「…もしかして演技だった、とか?」

至った結論に
深い
深すぎる溜息が零れた

確かに
"役を忘れて愛を囁いて"
なんて言ったのは
俺の方だ

シノミーはそれに従っただけ
…だったのかもしれない

潤んだ瞳
俺を見透かしたような言葉
それでも尚
告げられた『好き』

「からかうつもりが
とんだ災難に遭ったものだねぇ…」

レディに愛を囁くとき
愛を囁かれるときにさえ
高鳴ることはなかった心臓が
早鐘を打った

その事実

思うと
あまりに
遣る瀬無く

俺は机に突っ伏し
頭を抱えた

「早く忘れてしまおう…」

唯一の解決策は
ソレに違いない

うん、と頷き
試みて
みた
ものの…

「はぁ…」

どう
足掻いても

しばらくの間
俺は、立ち直れそうになかった…



::+::+::+::+::+::+::

ノッカーゥ☆


演技か本気か
友人としてか恋心としてか
知る者は誰もいない…

きっと無意識ですよねー(

なんで那月がヒロイン役?てのは
まあアレです
クジとか
運命の赤い糸的な…ね!


.

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