10/15の日記

00:27
相合傘で帰りましょ
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うたプリ(トキ那)


天気予報が外れる確立とは
如何程のものなのか…

ぼんやりと
そんな事を思いながら
零れ落ちた溜息

(さっきまで晴れていたというのに…)

参考書籍を買いに
訪れた書店

入る前は
多少の雲が漂いながらも
青が美しい、晴れ模様だった

にも関わらず

立ち読みなどをした後
目的の本を買って
出てみれば

曇天から
降りしきるのは
雫達

しかも
よりによって
今日に限って

傘を持ってきていない

常ならば鞄の隅
入れたままにしてあった
折りたたみ傘

それは
今は虚しいかな

同室の男に貸し出したまま
返ってきていないのだった

「まったく…」

さっさと返さないから
などとは言い訳
結局
用意を怠った私が悪い

(幸い、寮までは遠くありませんし
濡れて帰るしかなさそうですね)

見上げた空から察するに
雨足は
これから一層、激しくなるのだろう

立ち往生していても
余計に困り果てるだけ

そう判断し
買った本が濡れないよう
しっかりとタオルでくるんで
鞄の中へしまう

そして、いざ
雨の中へ
躍り出ようと
して

「あれ?トキヤくん…?」

不意に
呼びとめられた

出かかった足を戻し
声の方へ視線を向ければ
そこには

「…四ノ宮さん」

青い傘を差した
同級生がいた

「こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ」

「ええ、そうですね…」

この時
私は
嫌な予感を抱いた

なにせ出会った人物は
四ノ宮 那月
…どんな行動を取るか予測がつかない

表情を硬くした私には
まるで気付いていない様子で
彼は
小さく小首を傾げる

「あれ?トキヤ君…
傘、持ってきてないんですか?」

「ええ、まぁ…」

私の返事を聞くや否や
彼は
大袈裟なくらいに驚いて
私の方へ身を乗り出してきた

「もしかして濡れて帰るつもりですか!?
そんなのダメですよ!
風邪を引いてしまいます!」

「た、大した距離ではありませんし…
傘がないのではそうするしか…」

ぐいぐいと寄ってくる彼に
こちらの背は
どんどん反っていく

それでも寄ってくるから
一歩後ずさる

満開の笑みで
一歩、詰め寄られた

「それなら、僕と一緒に帰りましょう!」

「…はい?」

すっ飛んで明るい声音
あまり
良い予感はしない

予備の傘を持っている
というならば
とても
有難いところなのですが…

「さぁ、帰りましょうか!」

伸ばされた手は
私の腕を掴み
引っ張る

加減知らずな力に抗えず
ふらつけば
そこは
傘の、中
四ノ宮さんの傘の中

「これなら濡れなくて済みますよね?」

いや、いやいや
そんな誇らしそうに
言われても困るのですが

それは
つまり

二人で相合傘をして帰りましょう

ということ…
ですよね…?

「遠慮します」

「ええ、なんでですかぁ」

「なんででもです!」

…この人は
何とも思わないのだろうか

良い年した男二人
一つの傘を使い
寄り添って歩く
その姿

はっきり言って異常だ

いや、そうでなかったとしても
私には無理
知人に見られでもしたら
恥で埋もれたくなる

「私の事は気にせず
どうぞ、お一人で帰って下さい」

「嫌です!
トキヤ君に風邪は引かせません!」

「風邪など引きませんよ」

「引くかもしれないじゃないですか
だから
絶対に嫌です
絶対、一緒に帰ります!」

むっとした彼は
そう言って
私の手を強く握る

…離れない

…は、離れない

こうなっては
どうしようもなかった

私が頷くまで
おそらく
解放などしてはくれない

「……はぁ…」

意地になっている彼が
私の為に
そうしようとしている、とは
分かっていますが

「わかりました、一緒に帰りましょう…」

「はい!帰りましょう!」

ああ…
どうか…

誰ひとりと
出会いませんよう…

「…って、あの
四ノ宮さん?
手を離して下さい」

「逃げたりしませんか?」

「しませんよ
それに
このままでは傘が持てないでしょう」

「あ、そうですねぇ」

パッと解放された手
残る温度が
じんわりと染みるのを感じ

ながら

促されるまま肩を寄せ
一つの傘に
男二人で納まる

「ふふ
トキヤ君とこうやって帰るなんて
初めてで、なんだかドキドキします」

「二度目はありませんから
安心して下さい」

そうして踏み出した雨の世界
ぱたぱた
傘を叩く雫の音

納まりきらない肩の端が
少しだけ濡れる冷たさ

(雨など降らなければ…)

どこか上機嫌な彼の歩幅に合わせ
憂鬱な足が水溜りに呑まれた

すれ違う人の視線
遠くを歩く人の挙動
そればかり
目で追いかけながら

私の隣
次から次へ生まれくる
他愛ない言葉達へ
耳を傾けて

幾度かの相槌を経た頃

「これが一生に一度の出来事なら
雨に感謝しなくちゃですねぇ」

ふいに
楽しげに
彼が唄うものだから

私の意識は
急速に傾いた

「……、訳が分かりません」

短く長い
寮までの道のり

止むことない、雨模様

隣で微笑む
彼に
絆されて
しまったのか

それらが今
ほんの少しだけ

煌めいた

(一生に一度なら
まぁ、仕方ない…ですかね)

寄せ合う肩
揺れる髪の香り
吐息さえ聞き取れる
この距離

傘の中
狭い世界

意識した、途端

私は
ほんの少し
少しだけ

この憂鬱な出来事に
愛しさを感じてしまったのだった…


::+:+::+::+::+::+::

してくれるのか…?
してくれるのか…?!
いや、させられるんですね…!!


という思いのままに書いたら
そういう話になりました(笑

女装したまま外に出ることを
何とも思わないらしい
なっちゃんなら
相合傘とか余裕なんじゃなかろうか


縦スクロール長いですねぇ…;


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