書物庫

□化け犬一族
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厚い雲の中を一人の青年が飛んでいた。
その後ろには、緑色の小妖怪が青年のもこもこした毛皮にしがみついている。

ゴオッ
長い髪をかきわけるかのように風が吹いた。

城だ。
風が吹いたのと同時に雲を抜け、城が姿を現した。
とても大きくて立派な、空に浮き、雲の中に隠れている城である。

「殺生丸、またあの小娘に着物を貢ぐのか?」

青年、否、殺生丸は母の言葉を聞き流すと、城の奥へと入って行った。

「小妖怪」
「邪見でございます」

その場に残された小妖怪・邪見は未だに名前を覚えてもらえないでいた。
覚える気が無いから覚えていないだけであって、決して嫌がらせではない。

「小妖怪、殺生丸に伝えておけ」
「はっ、な、何でございましょう!」

殺生丸の母は椅子に腰掛けた。
どうやら寛ぎながら説明するらしい。

「私とて此処にずっと居る訳ではない。だが城を開けっ放しにするのは心配でならぬ」

「あ、あの、殺生丸様は城に長居する気はこれっぽっちも無いかと…… いや、別に御母堂様に不自由な……」

「そうか。殺生丸は城に残る気は無いのだな?小妖怪」

目を細め、目の前の小妖怪を射るように見据える。

「は、はぁ。おそらくは……」

「ならば仕方ない。他の者に任せるしかない。どうする殺生丸?」

息子に呼び掛けると、着物を持った殺生丸が出てきて答えた。

「ふん…… 好きにすればいい。私の知った事ではない」

「ならば殺生丸、犬夜叉を連れて来てもらおうか」

犬夜叉と聞いて、殺生丸の綺麗な眉が一瞬動いたのを邪見は見逃さなかった。

御母堂様が何を言い出すのか、邪見は気が気じゃなかった。殺生丸が苛つけば、全部自分に八つ当たりで反ってくるのだから。もう心臓がドキドキである。

「犬夜叉は飛べぬ」

「だから犬夜叉を連れて来いと言っている。あぁ、母がこんなにも頼んでいるのに、殺生丸は冷たい」

ついに嘘泣きまで始めた御母堂様を前に、邪見も少し先の未来の自分を想像して泣きたい思いであった。

一方、殺生丸は平然と母親を見ていた。
だが母親も負けてはいない。

「殺生丸、お前は嫌なのだろう?」

「城に閉じこもるつもりは無い」

「なら話しは早い」

殺生丸は返事をせず、無言で飛び立った。

「お待ち下され、殺生丸様ぁ〜〜」

続いて邪見もモコモコに掴まり、城を後にした。
 

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