四天宝寺U

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「ざーいぜん!」

「はい?」


謙也さんが嫌な笑顔で近づいてきた。

何企んどるんやこの人…


「そのキモい笑顔しまってください」

「な、今日俺ん家来るんやろ?」

「そのつもりでしたけど、やっぱやめますわ」

「何でやぁぁ!」


当たり前やろ。嫌な予感しかせえへんわ。

俺はラケバを背負って部室を出ていく。

謙也さんが慌てて俺を追ってきた。


「ちょお待てや!俺の家はこっちや!」

「…何でそないテンション高いんすか…」

「それは家に着いてからのお楽しみやっ!今言ったらお前絶対帰るしな!」


語尾に星がつく勢いで言う謙也さん。

早速帰りたくなったわ。

…でもまぁ、俺も鬼やないし、謙也さんの家行きたいし、ここは帰るのは我慢したろう。

そんなこと謙也さんには絶対言わんけど。


「…しゃーないっすね。変なこと企んどったら絶対帰りますからね」

「心配せんといて!ほんまに何もないからな!」


その笑顔が胡散臭すぎて信用できんのですけど。

まったくアホやな。この人も俺も。

絶対何か企んどるに決まっとるのに。

恥ずかしいことやら何やらされるに決まっとるのに、それも悪くないかな、なんて思ってしまう。


「ほな行くで」

「手ぇ繋ぐんは却下です」


さすがに繋がれた手は振り払った。

それでもへこたれずに、へらへら笑って隣を歩く謙也さん。

俺は笑いを堪えて、謙也さんの家に向かった。





後々後悔することになるとは、このときの俺は知る由もないのだ。







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