四天宝寺U
□医者の不養生
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うぅ…何やこれ、天井がぐるぐる回っとる。
体ん中は熱いのに、寒気が治まらん。
「うぅー…俺はもう死ぬんやあぁー」
「何アホなこと言うてるんすか」
べしっと頭をはたかれる。
俺の顔を覗き込む財前が眉間に皺を寄せる。
「謙也さんいきなり倒れるから、俺がここまで運んできたったんですよ。結構大変やったんですから」
あぁ、そうやん。
俺さっきまでリビングにおったはずやのに、視界に入る天井は寝室や。
あー…段々意識はっきりしてきたわ。
昨日の夜から頭痛くて、頑張って出勤しようとしたら倒れてもうたんや。
「まったく、医者が風邪ひくなんてほんまありえへん。二度と謙也さんに診てもらいたくないわ」
「医者だって風邪くらいひくわー。毎日風邪菌うようよしとるとこで働いとるんやでー」
「やったらしっかり免疫つけてください。誰かさんが専業主婦やってくれてうるさいから、アンタが倒れたら収入ないんすよ」
「はーい…すんまへーん……」
いつも以上に口悪いな…
まぁでも、財前の言っとることは正しいし。
「病院には電話入れときましたから。代わりの人おるみたいやし、よかったですね」
「おぉ…」
いつかは自分で診療所やりたいと思っとったけど、こんな風に倒れてまうようじゃあかんなぁ…
皆にも迷惑かけてまうし、申し訳ないわぁ。
「で?どんな調子なん?さっき熱測ったら38.4℃もありましたけど」
「マジか…そら辛いっちゅー話や…喉と鼻は大丈夫やけど、頭痛くてかなわんわ…」
「さいですか。まぁ頑張ってください」
そう言って立ち上がる財前。
え?ちょちょちょちょちょ…
「ざ、財前、どこ行くん?」
「掃除です。アンタの所為で途中なんですわ」
「ちょ、ちょお待ってや…」
俺は手を伸ばして財前のズボンの裾をつかんだ。
つかんだ、っちゅーか、触った、って感じやけど。
「何すか?」
「おま…旦那が苦しんどるっちゅーのに、1人にするんか…」
「や、でも掃除…」
「昨日もやったやろ…1日くらい大丈夫やて。やから…そばにおってや」
そう言うと、財前は小さく溜息を吐いて座りなおした。