四天宝寺

愛をください
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「そら、俺なんかよりも、兄ちゃんや義姉さんの方が好きに決まっとる。俺かて、親戚の叔父さんなんかより、オトンとオカンの方が好きや。
でも、改めて言われると、ごっつショックで……うっ……ひく…」


財前の声に嗚咽が混ざり始めた。

俺はもう1度そっと抱きしめてやる。


「ゆっくりでええ。ゆっくりでええよ」

「ぅ……兄ちゃんもアイツが生まれてから俺のことなんか放ったらかしやし、オトンもオカンも、嫌味ばっか…
俺が素っ気無いんが悪いんや。それはわかっとる…けど……」

「うん…」

「俺、寂しくて……誰にも愛されてへんのやなって思ったら、謙也さんに会いたなって、急に押しかけてもうた……」


消え入りそうな声で、ごめんなさい、と呟く財前。

小刻みに震えている華奢な肩が余りにも寂しそうで、俺は財前の額にそっとキスをした。


「さよか…俺のこと頼ってくれて、ありがとうな」


財前は小さく首を横に振ったけど、俺はほんまに頼ってくれて嬉しかった。

こいつは迷惑かけたとか思っとるんかもしれんけど、全然そんなことあらへん。


「謙也さんは、ほんまに俺のこと愛してくれはりますのん?ウソやない?
ほかに大事な人できたら、俺のこと捨てたりせぇへん?」


不安げに俺を見上げてくる財前。

その顔は悲しみに歪んでいて、俺は胸が痛んだ。


「愛しとるよ。誰よりも。財前以上に大事な人なんてできんし、死んでも捨てたりせえへんよ。
たとえ俺がお前に捨てられても、俺は絶対お前のこと忘れへん」

「謙也さんっ……好き、愛してる…」


俺の肩に額をくっつけて咽び泣く財前。

そっと抱きしめてやると、財前も俺の背中に腕を回してくれた。


「兄ちゃんは、ずっと俺のこと大事にしてくれとった。なのに、アイツが生まれてから、俺のことなんか見向きもしてくれへん。
俺かて甥っ子のこと好きやし、憎む気はあらへんけど…でも、やっぱ寂しい。
オカンもオトンも、やっぱ素直な孫の方が可愛いんやろな…
俺には怒ってばっかりや…」

「うん、うん、辛いな」

「俺、アイツにめっちゃ優しゅうしたっとんのに、何で好いてくれへんのやろ。俺どないしたらええの……」

「お前は、お前のままでええよ。俺は今のままのお前が好きや」


こんなこと言うたかて、全然解決になってへんけど、俺は思っとることをそのまま伝えた。


「それは、ほんまに、嬉しいんですけど……
でも、それじゃ…」

「うん、何も変わらへんよな…ごめんな、力になれんくて」


俺がそう言うと、財前は黙って首を横に振った。


「俺が勝手にへこんどるんです。謙也さんは悪ないんすわ…」




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