四天宝寺
□愛をください
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あれから10分くらい経ったやろか。
財前は少し落ち着いてきて、小さく鼻を啜っている。
「少しは落ち着いたか?水でも持ってこよか」
そう言って立ち上がろうとすると、財前に弱々しく手を掴まれた。
「嫌や、ここにおって。話聞いてください」
「ん…わかったで」
俺が座りなおすと、財前はぽつぽつと話し始めた。
「単刀直入に言うとな…俺、家出してきたんですわ」
「えっ?」
「でも、別にヒステリック起こしたわけやありませんよ。ついさっき、こっそり出てきました。たぶんまだ誰も気づいてへん」
あぁ…だから夜中なのに制服着とるんか。
「うん…それで?」
「謙也さん、俺に甥がおるんは知ってますよね?」
「おぉ。知っとるで」
財前の家に遊びに行ったときに見たことあるわ。
俺のことを謙也くん謙也くんって呼んで、素直で可愛い子や。
「俺な、アイツのことめっちゃ好きやねん」
「うん、知っとるよ」
財前はこう見えて子供好きで、甥っ子の面倒もよう見とる。
でも甘やかしとるわけやなくて、叱るときは叱る、ええ叔父さんや。
「でもな、アイツは俺のこと好きやないねん」
「は?」
「今日…いや、昨日か。アイツが歯ぁ磨いた後に菓子食おうとしたからな、ダメや言うてん。
そしたらアイツ、めっちゃ怒りよって…」
「うん」
「…光なんか嫌い。僕はオトンの方が好きやもん、って……」
財前の声がまた震えとる。
伏せた目から静かに涙が零れた。
「そしたら、兄ちゃんもオカンも、何泣かせとるんって怒りよって。俺、ちゃんと説明しとったんに……」
涙は止まることを知らんくて、財前の太腿を濡らした。