四天宝寺

愛をください
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あれから10分くらい経ったやろか。

財前は少し落ち着いてきて、小さく鼻を啜っている。


「少しは落ち着いたか?水でも持ってこよか」


そう言って立ち上がろうとすると、財前に弱々しく手を掴まれた。


「嫌や、ここにおって。話聞いてください」

「ん…わかったで」


俺が座りなおすと、財前はぽつぽつと話し始めた。


「単刀直入に言うとな…俺、家出してきたんですわ」

「えっ?」

「でも、別にヒステリック起こしたわけやありませんよ。ついさっき、こっそり出てきました。たぶんまだ誰も気づいてへん」


あぁ…だから夜中なのに制服着とるんか。


「うん…それで?」

「謙也さん、俺に甥がおるんは知ってますよね?」

「おぉ。知っとるで」


財前の家に遊びに行ったときに見たことあるわ。

俺のことを謙也くん謙也くんって呼んで、素直で可愛い子や。


「俺な、アイツのことめっちゃ好きやねん」

「うん、知っとるよ」


財前はこう見えて子供好きで、甥っ子の面倒もよう見とる。

でも甘やかしとるわけやなくて、叱るときは叱る、ええ叔父さんや。


「でもな、アイツは俺のこと好きやないねん」

「は?」

「今日…いや、昨日か。アイツが歯ぁ磨いた後に菓子食おうとしたからな、ダメや言うてん。
そしたらアイツ、めっちゃ怒りよって…」

「うん」

「…光なんか嫌い。僕はオトンの方が好きやもん、って……」


財前の声がまた震えとる。

伏せた目から静かに涙が零れた。


「そしたら、兄ちゃんもオカンも、何泣かせとるんって怒りよって。俺、ちゃんと説明しとったんに……」


涙は止まることを知らんくて、財前の太腿を濡らした。



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