リクエスト・贈り物・頂き物

□頂き物☆切裂とおりゃんせ夢
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響いた嗚咽が耳につく。陽菜は六分の恐怖と四分の好奇心に突き動かされて声の元を辿って行った。

迷子なのだろうか。それにしても酷い泣き様だ。もしかしたら誰かに襲われているのかもしれない。そんなところへわたしが向かって何ができるのだろうか。


「とおりゃんせ、とおりゃんせ 」


脳内に直接入り込んでくるような声が、赤く照らしていた夕日を黒く塗り潰した。視界が、陰っていく。 「行きは 」 なんとなく思い出したその歌の先に言い様のない恐怖を覚えた陽菜はその場から駆け出した。

ここよりも明るい場所へ。見慣れた場所へ。大嫌いだった自分の家がこんなにも恋しくなったのは初めてだった。

「帰りは 怖ひ」

陽菜は目の前が真っ暗になった。先もなく宛もない果てしない闇のなか。
すくんで動かなくなった足がとても痛い。 『い、た……』 膝をするように転んだ衝撃で片方の靴が飛んでいってしまった。

「 うまく避けれたでありマス、ね」
顔中に包帯を巻いた軍服姿の大男が転んで倒れたわたしを見下ろしていた。見たこともないくらいに巨大な鋏が口を開くようにわたしの頭上すれすれに停止していた。
錆びだらけのそれは現実離れしすぎていて意識を失いそうになった。
気を強く持たなければと、男を睨め付けてみるが男は笑みを深くするだけでより一層気圧されてしまった。

「そんな顔したって怖かねぇよ」
怪人は尚も笑う。わたしの上で。
首を掴まれ息苦しくなる。このまま意識を失えたらどんなに楽だろう。

「泣いて、叫んで、小生を喜ばせろ」
これは人間ではない。人間も十分恐ろしい生き物だが、こんな巨大な鋏を扱えるわけがないしマントの裏に泣き咽ぶ少女の顔をなど張り付けているわけがない。 『嫌、  』 わたしの涙声が嗚咽に変わった。
 

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