短
□バレンタインのお返しには、
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「純ーっ!!」
只今、朝の七時過ぎ。
日差しがまぶしくあたる二階の自室のベッドの上で、家の外から聞こえた声に、純は強制的に意識を起こされた。それでも眠さを引きずったままの純は、ベッドの上から動けずにぼーっと呆けていた。
「起きろよー! 純ー!」
再び外から名前を呼ぶ声がする。少女の声だが、言葉づかいは少々男っぽいようだ。
「んー……」
純はベッドからやっと這い出て、ねぼけながらも部屋の窓を開いた。
「うおっ、さみっ!」
窓を開けると、冷たい風が体にあたる。
「まぁそら寒いか。……2月だもんな、寒ィわ」
カレンダーの方に目をやり、今日の日付をみて寒さに納得する。
「……ん?」
今日、って。
「じゅーんーー!!」
純の思考はまたしても聞こえたあの声によって中断された。窓を開けたので、声は前よりずっと大きく聞こえる。窓から顔を出して見ると、少女が鼻の頭を少し赤くして、純の部屋を見上げていた。
「円ぁ? なんだよ、まだはえーだろ学校行くのさぁ」
頭をぼりぼりとかきながら、円の方を見てだるそうに叫ぶ。
「うっさい! はやく降りて来い!!」
「拒否権はナシかよ」
円の命令に疑問をいだいてみるが、
「ない!!」
ときっぱり否定されてしまった。
そう言われたら、もうしょうがない。純は円に従うしかないので、小さくため息をついた。
「わかったよ……。ちょっと待っとけ!」
窓の外に向けてさけびつつ、そこら辺になげてあった中学の制服を手に取った。
「ん、窓開けたままだと寒すぎて死ぬな」
窓を開けたままだった、と気づき、窓に手をかけた。窓を閉めるとすぐ、制服の学ランに着替える。
「やべっ、俺、時間割したっけ? ……ま、いーか。忘れてたら貸してもらお」
支度はなんとも軽い考えですませた。
純はカバンに手をかけ、ドタドタと足音を響かせながら階段を下る。リビングにいた純の母が、足音に気づいて声をかけてきた。
「アンタ、円ちゃん呼んでたわよ」
「だから今から行くって」
「そう。今日早いわねぇ。何かあるの?」
母の疑問に応えようにも、何故こんなに早く円が純を起こしに来たのかは、純自身にも分からない。
「しらねえよ」
短くそういうと、母親の反応は見ずにそのまま外へ出て行った。