◆妄想部屋◆
□アン×リート
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「…うわ、最悪。また怒ってるし。」
スタジオに入って開口一番、アンネスは勝手知ったる何とかで、手近にあったパイプ椅子に座りながら小さく毒づいた。
「違う!そこはそうじゃないと…何度、言わせる!」
台本でパイプ椅子を叩きながら、舞台に向かって大声を張り上げるリートの背中を見詰め、カバンから取り出したお菓子を口の中に放り込む。
冷静なようで実は短気なリートが熱を上げるのも最早、日常茶飯事と化している。
「…ストップ!」
だが。
正直、怒鳴られる側は堪ったもんじゃない。
「…アン、来てたのか。」
パイプ椅子からリートの前まで移動すると、アンネスは驚くほど綺麗な表情で仁王立ちした。
「来てたよ、さっきから!」
リートの注意がアンネスに移ったことで、その場にいた全員が顔を見合わせ、事の成り行きを静かに見守る。
「どうせ、休憩も取らずにぶっ通しとか…そんなんじゃないの?誰かさんは、一度、スイッチが入るとノンストップだしね!イノシシも吃驚だよ。」
「そんなことは…」
眉間に皺を寄せるリートの額に人差し指をぐりぐりと押し付け、アンネスはいつものように我が儘スキルを発動させる。
「し・わ!流石にもうダメだよ、休憩。俺は今すぐアップルジュースが飲みたい。買ってきて。」
「…アン。」
そして、咎めようとするリートにアンネスは素早くカバンから、取り出した医学書をリートの目の前に突き付けた。
「いい?俺はね、未来の医者なの。その俺が休憩だって言ってるんだよ?自分でも、このままじゃダメだって解ってるんでしょ?だから、イラついてる。どぉ?違う?」
ズバズバと図星を指していくアンネスに、リートが深い溜め息を吐く。
「…溜まってるんじゃないの?」
少し考えた素振りを見せたアンネスが、にやりと口元を緩めた。
「…何が、だ。」
「またまた〜!とぼけちゃって♪最近、アドと会ってなかったんだよね?そっかそっか。ごめんね。」
リートの腕を取ってパイプ椅子に座らせると、よしよしと慣れた手つきで頭を撫でる。
「だから…」
アンネスの手を軽く払い退け、何か言い続けようとしたリートを尻目に、アンネスはマイペースにポケットから取り出した飴玉を自分の口の中に入れた。
「…もういい。」
「リートさん、そんな怒んないでよ♪」
ふい…と、そっぽ向いたリートの顔を自分の方へ向けるとアンネスは、口元を緩めてリートの顔を覗き込む。
「何だ…っ…んっ?!」
その場にいた全員が、驚きのあまり言葉を忘れる。
アンネスがリートの唇に自分の唇を押し付け、流れるように舌を絡めて自分が舐めていた飴玉をリートの口腔へと転がした。
「…ねね、リートさん。その飴あげるから機嫌直してよ♪」
アンネスが唇を離した瞬間、そう言うと素早くリートの口を掌で塞いだ。
リートの口の中に、サイダーの味が広がる。
我に返り、今にも文句を言い出しそうなリートの耳元に唇を寄せると、アンネスはそっと耳元で囁く。
「気が乱れてる。『怒』の気は波紋を呼び、『静』の気は新しいものを生み出す。鎮めの気を入れたから、大人しくしといた方がいいよ?無理して動くと…」
アドニスと同じ造りの顔立ちが、くるくると表情を変える。
「どっかぁ〜んっ♪」
その言葉と同時にアンネスは笑顔でリートに飛び付き、楽しそうに笑った。