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□由紀≦由紀
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ふぅー…
錆びたフェンスにもたれて、青く晴れた空を見上げる。
ビルの屋上でふかす、寮に戻る前の一服。
神蘭に入学して2週間、帰りにここへ寄るのが毎日の習慣になりつつあった。
さほど大きくも新しくもないこのビルは、学校から賑やかな場所へ出る少し手前に建っている。
美容院や英会話教室の入った建物で、制服姿の俺がうろついていても不審に思われることもない。
階段を一番上まで上がると、屋上に続く鼠色のドアがある。
鍵は壊れているが立ち入り禁止の紙が貼ってあるからか、俺以外の誰かが入ってきたことは一度もなかった。
あー…たりぃ。
数日前から
「彼女はいるのか」
だの
「22日は空いてるか」
だの
「プレゼントは何がいいか」
だのと、なんだかんだ知らねえ女までが連れを介して言い寄って来やがる。
ふん。
本当に気があんなら、直接言いに来いよ。
誰か一人を選んだりすりゃあ、面倒くさいことになるのは目に見えてる。
間に入った奴らの顔もあるし、いつもつるんでいる連中も、妙な気を遣ってか俺を置いてとっとと帰りやがった。
ほとぼりが冷めるまで、ここで時間つぶすしかねえな。
あーあ。
誕生日だってのに、ひとりかよ。