夢の断片
□夢を日記に書き綴る
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ゆっくりと意識が浮上してくる。先ほどまで隣にあった温もりはとっくに夢に起きてきていて。けれど先ほど彼に言われた言葉が頭に残っているわけで。
「…どういうことだ?」
そういって頭を捻るけれど特に何も思い浮かばなくて。仕方がないからと一度自分の机に向かう。そうしてあったことをなんとなく書いていく。
「…こんなものか。」
大体書き終えてしまえばまた布団に潜るだけの生活。夢の中でだけは自分は自由でいられた。世界をたくさん見て回ることができた。どこか見覚えのある化け物に襲われたり、ひどい頭痛を伴いながら目を覚ましたこともあるが、それなりに夢の中は快適だった。
「…それもまた、のみが夢では傍にいてくれるから…かな。」
でもなぜだろう。今日は不思議と夢の中に入る気にならなかった。一度ゴミ箱の中を確認し、それから一度だけドアを見る。…その先に行くことはできないでいた。
「…もう、いいよな。」
自分一人の部屋でつぶやく。そうして一度ベランダへ出てしまえばもう、そこから先の自分の行動は早いと思っていた。
ドアがノックされるまでは。
「…!?誰だ!!」
自分を訪ねてくる人間なんているはずがない。じゃあ、あの女であろうか。これ以上自分を苦しめるつもりであろうか。焦る自分に扉の向こうの人物は大声を上げた。
『宗太郎!!』
眩暈がする。嘘だ。だってのみは夢の中の人物じゃないか。
『開けて、宗太郎開けて!!僕だよ!!のみだよ!!開けて!!』
「…本当にのみなのか?」
あぁ、期待なのか震える声が恨めしい。けれど扉の向こう側にいる人物は優しい声でもう一度俺の名を呼んだ。
『迎えに来たよ。僕の宗太郎!』
扉を開けるとそこには向日葵の笑顔が待っていた。
『もう、夢に逃げなくていいんだよ。…僕が傍にいるからね。』
「…あぁ。」
抱きしめた身体は小さくて、少し力を入れれば折れてしまいそうなのに、声がひどく頼もしい。
『大丈夫、僕と一緒に行こう?』
「…そうだな。」
のみの手を取り、久々の外へと歩き出す。あんなに恐怖していたのに、のみとともに出た外は、思ったよりも自分を歓迎してくれているようだった。